プロ野球亭日乗BACK NUMBER
批判を恐れず実行しきる男・原辰徳。
なぜ今、この名将が呼ばれたのか?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/10/05 17:00
前回、ジャイアンツの監督として最後のシーズンとなった2015年当時の原辰徳。再びこの勇姿が見られる!
翌日の新聞では多くの評論家が酷評。
変則シフトの条件を相手が強打者で長距離打者であることと本塁打を打たせないための手段と規定した野村さんは、その条件に沿わない西岡へのシフトに疑問を呈する。
「原監督は『代打西岡』がコールされる直前、今成を打席に迎えたときからシフトを変えてきた。打者が今成でも西岡でも、この場面でこれほどまでに1点にこだわる理由が私の頭にはまったく浮かんでこなかった」
こう指摘した上で、これを指揮官のスタンドプレーと断じたのだ。
「肩書きによって錯覚しがちだが、監督とはある意味、裏方である。あくまで主役は、選手、巨人のように強力なチームで、しかもこの時期に動きすぎる必要は、ない」
厳しい論調だった。
野村さんだけではない。結果が失敗だっただけに、翌日の新聞ではほとんどの評論家が、この内野手5人シフトを酷評したのである。
ただ、原監督は全く気にしていなかった。
なぜならこのとき原監督が見ていたのは、その阪神戦だけではなかったからだ。
「そういう経験を積ませるチャンスだと」
「前から守備のオプションとして考えていて、いつかやれる場面がきたらやろうと思っていた。2点をリードされて、ここだという風景が見えたんだよ」
変則シフトは決してその場の思いつきではなかった。原監督の頭の中にはずっとあった作戦だったという。
もちろん試合を諦めたわけではない。劣勢に流れた試合で、ただずるずると負けるのではなくその負け方をどう仕切るか、だ。亀井に内野を守らせたのは、この阪神戦を乗り切ることだけが目的ではなかったということだ。
「選手に実戦で1度は経験させておきたかった」
後に原監督から聞いた話だ。
「実際にそういうシチュエーションで守ってみることで、例えば(阿部)慎之助(捕手)はどういうリードが必要なのかとか、経験できて考える材料が増えるはずです。
守っている選手たちも、1度、やってみることで本番で見えてくる景色が変わるはずなんだ。そういう経験を積ませるチャンスだと思った」