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西武・松井稼頭央の引退と気配り。
うれし涙は日本一までとっておく。
posted2018/10/05 08:00
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph by
Kyodo News
9月27日、松井稼頭央が日米通算25年間の現役生活にピリオドを打つことを発表した。
「現役をやめる年にライオンズに声をかけていただいたのは、運命だと思っています。『最後はここで』と自分ではずっと思っていましたから」
メットライフドーム内の球団施設で会見を行った松井は終始、すっきりとした表情で記者からの質問に答えていた。
ただし会見の途中、一瞬だけ言葉に詰まったときがある。
ファンへの思いを聞かれた際だ。
「今年、最初の打席であんなに大きな声援をいただいた。フリーエージェントで一度、チームを出て行ったにもかかわらず、あれほどの大声援で迎えてもらえるとは……」
涙をこらえたせいか、言葉が震える。そのシーンを思い浮かべているかのように、かみしめながら思いを語った。
「全員にサインしてから帰るわ」
ファンを愛し、ファンに愛された選手だった。
西武への復帰が決まった直後、インタビューをする機会があった。
「松井選手の復帰で、またライオンズファンに戻ってきた人もいるそうですよ」
そう告げると、心からうれしそうに顔をほころばせた。
「ありがたいですね。そして15年ぶりなのに『おかえり』と言ってもらうことは、これ以上ない幸せです」
春のキャンプでは、遅くまで練習の終わりを待っていたファン、1人ひとりのサインや写真撮影に応じた。室内練習場を出てメインスタジアムに向かう前に、周囲にいた選手たちに「今日はオレ、これから待っている人全員にサインしてから帰るわ」と宣言。室内練習場を出た松井の前にファンが長蛇の列を作った。
大ベテランのそんな姿にほかの選手が触発されないわけがない。木村文紀、金子侑司らがあとに続いた日もあった。
プロ野球選手が“ファンへの感謝”を言葉にする機会は多い。しかしそれを、ここまで体現する選手は稀だろう。ファンを大切に思う気持ちが、行動から伝わってきた。