One story of the fieldBACK NUMBER
中日・荒木雅博は、なぜ「さよなら」を
言わないのか。それぞれの引き際。
posted2018/10/06 08:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
「さよなら」を言うのはいつだって難しい。
もちろん、感傷的になってしまう自分を見られたくないという照れや恥じらいもあるのだが、それよりもタイミングだろうと思う。
もう辞めよう。心の中でそう決めることはできても、それをいつ口に出すのか。それが難しいのだ。おそらく、そのひと言が自分や周りの人たちを変えてしまうからだと思う。
今年はプロ野球の大きな転換期だったのだなあ、という気がする。1000試合登板、歴代最多セーブの鉄腕・岩瀬仁紀、トリプルスリーの松井稼頭央、カープに愛された新井貴浩、育成から巨人のリリーフエースとなった山口鉄也、そして杉内俊哉、後藤武敏、小谷野栄一ら松坂世代を代表する選手たち……これほどの大物が続々と引退を決めたシーズンもないのではないか。そして、それぞれのプロがどんな引き際を選択していくのかを興味深く見ている。
「辞める」と言ってしまったら。
そんな中、シーズンもほぼ終わり、秋風が肌寒くなったこの10月5日現在、まだ「さよなら」を言っていない選手がいる。
荒木雅博。
中日ドラゴンズの黄金期を支えた内野手で、2000本安打達成、ゴールデングラブ6度の名選手だ。
すでに今季限りで引退するという報道は出ている。ユニホームを脱ぐのは間違いないだろう。ただ、彼はまだ自分の口から「辞める」と言っていない。同じチームの岩瀬も、浅尾拓也も引退会見をしたのに、荒木だけは別れを口にしていないのだ。
その姿を見て、いつだったか、荒木がこんなことを言っていたのを思い出した。
「みんな、いろいろな引き際があるけど、俺は『辞める』って言ってしまったら、グラウンドに立てないような気がする。これは自分の性格かもしれないけど、相手も辞めると言った自分と戦うのはやりにくいんじゃないかって思ってしまうんだよね」