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魔法の言葉でマンCを操るペップ。
天才戦術家に過信があるとすれば。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byUniphoto press
posted2018/10/07 09:00
『オール・オア・ナッシング』はJリーガーの中でも話題になっているという。ジョゼップ・グアルディオラの影響度はそれほどまでに大きい。
ポジショナルプレーも完成の域。
無冠に終わった1年目を経て、マンCの監督就任2年目の昨シーズンは勝点を前人未到の100ポイントの大台に乗せ、さらに総得点(106)や勝利数(32)などもリーグベストを更新する異次元の強さを見せつけて、4シーズンぶりのリーグ制覇。ペップの哲学が浸透したチームは、抜群の完成度と質の高さを誇った。
ペップが持ち込んだ「ポジショナルプレー」や「5レーン理論」といった新しい概念のもと、その攻撃サッカーはすでに完成の域に近づいている。迎えた今シーズン、キーマンのひとりであるケビン・デブライネを開幕直後から右膝の故障で欠きながら(復帰は10月中か)、7節を終えたプレミアリーグでは6勝1分けと無敗をキープ。とりわけ、1試合平均3得点という攻撃力は圧巻のひと言だ。
組み立てからフィニッシュに至るまでの道筋が明瞭で、選手間に共通認識が根付いているから、試合中に問題が発生しても瞬く間に軌道修正してしまう。まるでひとつの生命体のようなチームは、自然治癒力がとてつもなく高いのだ。
「メッシがいなければCLは……」
ただ、スペインのラ・リーガ(バルセロナ)、ドイツのブンデスリーガ(バイエルン)に続いて、異なる3つの国でリーグタイトルを手にしたペップだが、それでも心は満たされない。
理由はただひとつ。チャンピオンズリーグ(CL)のタイトルが遠いからだ。
バルサを率いて2度(2008-09、2010-11シーズン)ヨーロッパの頂点を極めたペップだが、その後はバイエルンでの3シーズンも、マンCでの2シーズンもビッグイヤーに手が届いていない。バイエルン時代は3年連続でスペイン勢に敗れてベスト4敗退、昨シーズンは準々決勝でリバプールに衝撃的な敗北(第1レグが0-3、第2レグが1-2)を喫している。
「リオネル・メッシがいなければ、CLで勝てない」
そんな陰口も囁かれるようになった。
常々、ペップはこんな言葉を口にしている。
「選手の即興で手にした勝利などつまらない。自分の思い通りにチームを動かして掴み取った勝利にこそ、私は最高の満足感を覚える」
メッシという“異星人”がいれば、その圧倒的な打開力と決定力で、どんなに難しい状況も乗り越えられた。高度な戦術を駆使しても崩せなかった守備ブロックも、好調のメッシなら独力で打ち破ってくれた。しかし、それではペップの虚栄心は満足しないのだ。