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魔法の言葉でマンCを操るペップ。
天才戦術家に過信があるとすれば。
posted2018/10/07 09:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Uniphoto press
凡人には凡人の悩みがあるように、天才にも天才にしか持ちえない悩みがある。そしてそれは、到底凡人には理解しえない。
モーツァルトの頭の中には、序章から終章まで、あらゆる楽曲が完全な形で出来上がっていたという。だから、わざわざそれを譜面に写し取らなくてはならない作曲という「煩わしい作業」が、苦痛でならなかった。
「スッと来た球を、バアッといってガーンと打つんだ」
長嶋茂雄という不世出の天才にとってバッティングは、理論ではなく感覚であった。
「ただ来た球を打てばいいだけなのに、なぜそれができないのか」
選手時代よりも、彼からすれば凡人揃いのチームを指導しなければならない監督時代の苦悩のほうが、はるかに深かったに違いない。
名選手が名監督になりにくい理由は、おそらくそんなところにあるのだろう。感覚を言葉にする術を知らない、あるいはその煩わしい手間を省略してしまうからだ。
ペップが口にする魔法の言葉。
そういった意味で言えば、ジョゼップ・グアルディオラは特別な人種なのだろう。現役時代、中盤の深い位置から巧みにゲームを操った天才プレーメイカーがいま、名将の誉れを得ているのは、感覚を明確な言葉で伝えられるという強みがあるからだ。
2017-18シーズンのマンチェスター・シティを追ったドキュメンタリー『オール・オア・ナッシング』には、そんなペップの魔法のような言葉がちりばめられている。
「クオリティーで圧倒しろ、相手に何もさせるな!!」
「俺と友達になる必要はない、憎むなら憎め!!」
「プレッシャーとはタイトルを争う者だけに与えられた特権だ!!」
クラブハウスでのミーティングや試合前のロッカールームでは、流暢な英語で選手を激しく鼓舞するが、しかし精神論に終始しないのがペップのやり方だ。作戦ボードを使って送る細かな指示から、戦術家としてのディテールへのこだわりが伝わってくる。