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大坂なおみ、セリーナ戦での品格。
全米制覇は“Naomi Era”の幕開けに。
posted2018/09/09 14:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
ブーイングと歓声が入り混じる、異様な全米オープン決勝だった。
産休明けで優勝を期待された地元アメリカのセリーナ・ウィリアムズは、第2セットにボックス席に座る彼女のコーチからコーチングを受けたとして警告され、次にラケットを投げつけて破壊する「ラケット・アビューズ」によってポイントを失い、そして審判を「泥棒」と呼び、侮辱したとして第2セットの第8ゲームを失った。
とても「女王」にふさわしい振る舞いをしたとは言えなかった。
個人的には、セリーナがパリのローラン・ギャロスやロンドンのウィンブルドンで同じような態度を取るとは思えない。ニューヨークで戦っている「驕り」が自滅を招いたように思えてならない。
この夜、ニューヨークの女王にふさわしい“class”、品格と落ち着きを見せたのは二十歳の大坂なおみだった。
試合中にブーイングが渦巻くコートで、感情を高ぶらせていくセリーナと対照的に、大坂は終始落ちつき、自分のプレーに集中していた。
彼女のメンタリティに、私はこの1年間の彼女の成長を感じた。
1年前に話していた自身の弱点。
昨年10月、私は『Number』誌上で彼女にインタビューしたが、その席で大坂は自分の弱点を次のように話していた。
「私は、テニスのうえでは自分に厳しすぎるって指摘されるんです。試合中、もっといいプレーが出来たのに、ってイライラしてしまう。もっとイージーに、気分を切り替えてプレーした方がいいんだよってアドバイスをもらってます」
テニスでは、こと試合中に限っては自分に厳しいことはプラスに働くとは限らない。「ああすれば、ポイントを取れていたのに……」とくよくよしていると、次のポイントに影響してしまう。
しかし、決勝戦での大坂はベテランのような落ちつきを見せた。