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大坂なおみの無垢さは最高の武器。
「セリーナと抱き合ったら子供に」
posted2018/09/10 17:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Getty Images
あんなに悲しそうなグランドスラム・チャンピオンを見たことはない。2万4000人を収容する巨大スタジアムで耳鳴りがするほどのブーイングの中、20歳の初々しい勝者は、黒いサンバイザーのつばを左手で下ろして涙を隠した。
そのとき、憧れ続けた史上最強とも言われるプレーヤーが肩を抱き、なぐさめていたことがせめてものやさしい光景だったが、そもそもこの状況に陥らせたのもその人なのだから複雑だ。
弱々しく立ち尽くす大坂なおみは、もっと華々しく新チャンピオンとして迎えられるべきだった。23個のグランドスラム・タイトルを持つセリーナ・ウィリアムズを打ちのめしたのだ。
たとえ36歳のセリーナが産後復帰からまだ「50%くらいしか戻っていない」と自己採点する状況だとしても、世代交代を謳うにふさわしいテニスで。
大坂が軽々と乗り越えた2つの壁。
この日、大坂は2つの壁を軽々と乗り越えてみせた。
1つ目は初めてのグランドスラム決勝という壁。錦織圭も4年前に敗れた全米オープン決勝戦を振り返って、「試合が始まる前は大丈夫だったのに、コートに入った途端に浮き足立ってしまって自分が自分じゃないような感じだった」と言った。
あのノバク・ジョコビッチですら、初めてグランドスラムの決勝に進出した20歳の全米オープンでは、ロジャー・フェデラーに敗れて「ロジャーがこれを最初から乗り越え、ずっと継続させているということが信じられない」と語ったものだ。
大坂は落ち着いていた。我慢とリスクのさじ加減を見事に調整。セリーナのパワーショットに振り回されても走って追って切り返し、大胆に攻めてウィナーを奪った。第1セットは第3ゲームと第5ゲーム、2度のブレークに成功。セリーナには確かに全盛期のキレがなかった。
しかし大坂のプレーがあれほどのレベルでなければ、セリーナならいくらでも付け入ってきただろう。