炎の一筆入魂BACK NUMBER
「引退」の二文字はまだ早い……。
村田修一、今季NPB断念と現役の意地。
posted2018/08/02 11:30
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
平成が始まったばかり、九州福岡県の小さな町の小さなグラウンドで、まだ体も小さい小学4年生が泣き叫びながら、ピンクや青や黒、緑などカラフルなビニールテープをぐるぐる巻きにしたプラスティックのバットを振り回していた。
その少年は、クラス対抗の草野球に負けたのが悔しかったのだ。
勝った相手クラスの子どもの自転車をたたいて、悔しがった。
狂気的な怒りではない。子供らしい無慈悲さゆえに、勝った方の生徒が挑発的な喜び方をしたのも悪かった。
あの夏は暑いなんて感じなかったが、あれから約30年が経ったこの夏は異常に暑く感じる。
子供ながらに執拗に喜びをあらわにした、あの時の少し照れくさい記憶を思い出しながら、ホテルの一室でパソコンを開いた。
モニターに映し出される、あの夏、プラスティックのバットを振り回した少年の大人になった姿は、無数のフラッシュを浴びていた。筆者にとっていつも同世代の星であり続けた男が、栃木県の小さな会見場で野球人生にひとつの区切りをつけたのだ。
松阪世代と言われる中でも、福岡県の小さな町で育った自分たちにとっては「修一世代」だった。村田修一とともに、同じ時代を過ごしてきた。修一は常に、一番星であり続けた。
「選択した道に後悔はないです」
「自分の野球人生を歩んできて、選択した道に後悔はないです」
終始、堂々と、胸を張り、ときにはハッキリとした口調で、自分の言葉で思いを伝えてきた。
「受け止めて、前を向いて進むしかない。自分の中で整理して、次に進んで行こうかなと思います」
あえて「引退」の二文字を口にしなかったのが、せめてもの「男・村田」の矜持だったのではないだろうか。
プロとして、野球人として、最後まで「男・村田修一」を貫いたように感じる。