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貴乃花親方と村田諒太の対談全文。
強さ、身体感覚を極限まで求めて。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/07/09 07:00
貴乃花親方と村田諒太。肉体をぶつけ合う競技に挑む2人だからこその身体感覚がある。
精進は一生続くのが相撲道の根本。
村田 しかし確かに、四股ってどうして四つの股なのかと思っていたんですよ。
貴乃花 片足2つの骨、合計4つを地面から離したらいけませんよ、ということです。靴を履く前、人間の原型の鍛え方です。かかとから土踏まず、かかとから土踏まず、と歩く。これで腰をおとして、かかとをつけて進んでいくのが(実演しながら)摺り足です。かかとをつけて、土踏まずから、指の付け根の骨でつかむ。そのまま前に行く。今度は、軸のかかとに、逆の足のかかとを持って行って進む。
村田 ……ええ!?(笑) いや、僕は足の感覚が全然なくて。うちのジムに山中慎介チャンピオンという人がいて。あの人は、靴が自分の思い通りで、足の指の感覚がつかめていないとダメなんだそうです。でも僕なんかは、シューズはどれでも、(パンチを繰り出しながら)上でパンパーンといけば関係ない、とやっちゃう(笑)。
貴乃花 日本の人は昔、鼻緒のある草履を履いていたじゃないですか。生活の中で自然に、足でつかむ動きをしていたんですね。家の中も畳だし。
村田 何が凄いって、貴乃花さんの足の指の間が凄く開くんです。
貴乃花 (笑)。
村田 縦には曲げ伸ばしできるけれど、横に指を開くのはできないですよ。僕もトレーナーにやってみろ、と言われているんですが、足の指がつりそうになるし、結果が出にくいというか、身につくまで相当時間がかかりそうで……結局やっていないことの一つです。
貴乃花 この自分の軸を鍛えることは、私も一生のテーマです。永遠の精進。鍛錬の上を行かないといけない。相撲が取れない身体になっても、精進は一生やっても足りないよ、というのが相撲道の根本です。相手を常に慮る、勝負が終わったら手をさしのべる、というのが基本です。
初めから正解の通り、では伸びない。
村田 そういうお考えとか、身体感覚みたいなものは、実戦で身につけたんですか。
貴乃花 それはもう、余裕がないので。自分で自分の弱さを追及して、自分に打ち勝たないと、相手のことまでいかない。それが良かったのかもしれません。
村田 考えて考えて、考えた挙げ句、考えなかった方が良かったことはありませんか。
貴乃花 あります、あります。
村田 僕はボクシングをこうやってやろうああやってやろう、といろいろ考えて、結局こっちだった、と元に戻すようなことが多々あって、そのときはなんでこう遠回りしているんだろう、と思うんですけれど。
貴乃花 うちの弟子に教えるときも、結局若い頃ってやり方が無茶苦茶でも、とにかくクタクタになるまでやらせないと、本当のいい身体の使い方って覚えないんです。自分でやり過ぎるくらいやってみて、実戦でやってみて、あ、これが正しかったのか、と。だから決してそれは無駄じゃないんだ、と15年教えてきて年々思いますね。
村田 初めから正解を出して、正解の通りにやれと言っても伸びない。
貴乃花 そうです。だから、相撲も知らずに入ってきた子には、かかとをつけながらやりなさい、としか言わない。段階を経てきてはじめて、こういうものだと。最初から理屈で教えてしまうと、身体で覚えにくいのが若い子かな、と思います。