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負けず嫌いな本来の錦織圭が再び。
前哨戦は収穫大で全仏オープンへ。

posted2018/05/22 10:30

 
負けず嫌いな本来の錦織圭が再び。前哨戦は収穫大で全仏オープンへ。<Number Web> photograph by Getty Images

天敵ジョコビッチを相手に激戦を繰り広げた錦織圭。敗れはしたが、頂点に肉薄していた頃の雰囲気が戻ってきた。

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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 錦織圭が忍者のようにヒッティングポイントに入っていく。素早く精密な動きでボールに近づき、最も力の入る打点で打ち返す。弾道の低いスピードボールだ。

 これにはノバク・ジョコビッチの守備力でもお手上げだ。どうしたジョコビッチ。薄暮のセンターコートに何度もどよめきが起きた。錦織は委細構わず、ゾーンに入ったように狙撃手のような正確な攻めを続けている。

 これが第1セットの両者の攻防だった。ジョコビッチは錦織のフォアハンドをついてきた。錦織のフォアに破壊力があるのは承知の上。しかし、深いボールで詰まらせれば、あるいは低い打点で打たせれば、スピン過多の返球になり、攻撃の糸口ができる。

 フォアは彼のバックハンドほど盤石ではない――これがジョコビッチの基本戦術だったはずだ。

 ところが錦織は、素早い動きでこの攻めを無効化してしまう。

 無理やり野球にたとえれば、投手が厳しいコースをついてきたのを、バッターボックスから飛び出すことで絶好球にして打ち返すのだ。忍者の動きができる錦織だからこそ、この策が可能になる。

 ただ、超のつく積極策だけにリスクを伴い、体にかかる負担も大きい。それでも錦織は、11連敗中の難敵を倒すために、こうしてガツガツ打っていった。

ジョコビッチのボールが深さを増す。

 第2セットは展開が大きく変わった。錦織がサービスゲームを続けて落とし、0-4。ジョコビッチのボールが徐々に、まさに1ゲームごとに深さを増し、左右両翼への展開も厳しくなった。

「(ジョコビッチが)プレーを変えてきたり、プレーがよくなってきた」と錦織は話す。守勢に回った錦織のボールが浅くなり、自分から打っていく場面が極端に少なくなった。セットの終盤はあえて流れに任せ、第3セットに賭けた。

 その最終セット、ゲームは再び様相を変える。すさまじい緊張感の中、爽快なウイナーは減り、探り合いと、しのぎ合い、だまし合いが始まった。その場しのぎの主審の不手際が重なり、心理戦をさらに難しいものにした。

【次ページ】 徐々に、徐々にジョコのペースに。

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