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負けず嫌いな本来の錦織圭が再び。
前哨戦は収穫大で全仏オープンへ。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2018/05/22 10:30
天敵ジョコビッチを相手に激戦を繰り広げた錦織圭。敗れはしたが、頂点に肉薄していた頃の雰囲気が戻ってきた。
徐々に、徐々にジョコのペースに。
両者のボールが浅くなり、しかし、それを攻めきれない。それでも元王者は緊張を徐々に乗り越えていく。
この展開は、5月27日に開幕する全仏のシード順を決める大事な戦いでもあった。ジョコビッチはこの準々決勝で敗れると、全仏で第25シード以下になる可能性が濃厚だった。上位8シードとの早いラウンドでの対戦を回避するために、今ここで、1つでも多く勝ちたい。もちろん、故障からの復帰過程でもあり、何より1つの勝ち星がほしかったはずだ。
錦織も事情は同じ。全仏のシード順は「心の底の底」で意識していた。そして、モンテカルロ準優勝でふくらんだ自信を一層確かなものにしたかった。
その思いが体をしばったわけではないだろう。しかし、錦織は心理戦を打開できない。第3セット3-2からのゲームではブレークポイントもあったが、チャンスを逃し、逆に次のサービスを破られた。
錦織「判断ミスで攻め切れなかった」
「チャンスはあったが、なかなか大事なところで攻めきることができなかった。メンタルの弱さというか、最後まで踏ん張りきれなかった」
錦織が苦い思いを絞りだした。攻めきれなかったのは「判断ミス」だという。
第6ゲームのブレークポイントを指していると思われる。ラリーの中で何本かチャンスがあった。相手のボールがネットに触れ、勢いを失う場面もあったが、錦織はこれを仕留めきれず、最後はこらえきれなくなって、ダウン・ザ・ラインへのバックハンドをネットに掛けた。痛恨の逸機だった。
「思いきりプレーできなかったのは、まだ自信がないからかもしれないが、何を言っても言い訳になってしまう。あそこで思いっきり攻めて、ポイントを取るか取られるかでもよかったかもしれないが、正解はないので」
大事な試合の終盤だけに、緊張はあって当然。その中で何ができるかに選手はすべてを懸ける。錦織もできることをやった。その攻防でジョコビッチがわずかに上回った。直接対決11連勝中の自信、元王者の威信、復活への意志がジョコビッチを奮い立たせたと見ることもできる。