欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
ブラジルやスペインから学ぶもの。
ハリルJに目指すべき理想はあるか?
posted2018/04/05 07:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
昨年末まで、サッカー専門誌の編集者だった。
かれこれ20年以上に及んだキャリアを振り返ると、成功例よりも失敗例の方が鮮明に蘇ってくるが、1つ、編集者としてずっと不可解だったジンクスがある。
「きっちり作り込んだ、手応え十分の雑誌は意外に売れない」
綿密に企画を練り、じっくり丁寧に作り上げたつもりなのに、店頭での動きが予想を下回るケースが少なくなかったのだ。反対に時間に追われ、インスピレーションの赴くまま短期間で仕上げた号が売れたりするから、余計に迷いは深くなる。料理人が素材選びから手間暇かけてこしらえた渾身の一品が、冷蔵庫の余り物で作ったどんぶり飯より不味いと言われた時のようなショックを、何度となく味わってきた。
想像するに、おそらく微に入り細を穿った隙のない作品には、楽しさや遊び心が欠けていたのだろう。作り手が上段に大きく振りかぶるから、受け手も委縮して踏み込めない。
そんな上から目線を、読者は敏感に察知する。
作り手が、演者が楽しんでこそ、エンターテインメントなのだ──。
改めてそんな思いを強くしたのは、3月末にマリ代表、ウクライナ代表と親善試合を戦った日本代表のサッカーを見たからかもしれない。
今の日本は「アドリブ禁止のサッカー」?
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が掲げる「縦に速いサッカー」を、ただ生真面目に遂行しようとする日本代表の選手たち。
パスを受けると、まるで爆弾でも預けられたかのように慌てて前方へと蹴り込む。ドリブルで勇敢に仕掛けることもなければ、細かくパスを繋いで崩そうというチャレンジも、思い切ったミドルもほぼ皆無。指揮官によって書き上げられた台本を棒読みするだけの「アドリブ禁止のサッカー」が、面白いはずもない。
ボールを蹴る喜びがプレーから伝わってきたのは、2試合とも途中投入された中島翔哉ただ1人だった。
「こんなにも、僕たちの代表選手はヘタクソだったのか」
衝撃だった。
球際の強さと縦へのスピードばかりを求めているうちに、一番の武器だったはずの繊細なテクニックが、いつしか水泡のように消え失せてしまっていた。