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中卒“叩き上げ関取”がまたひとり。
白鷹山を育てた元安芸乃島の心意気。
posted2018/03/31 11:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
学生出身力士の活躍が目立つ相撲界で、中卒の“叩き上げ関取”が、またひとり誕生した。
'90年代、空前の大相撲人気のなか、史上最多の金星16個の記録をもって土俵を沸かせた名関脇――元安芸乃島が育てた白鷹山(はくようざん=22)だ。相撲未経験の15歳で、まさに“まっさらな状態”のまま高田川部屋に入門したのは、7年前のこと。相撲の“いろはのい”から仕込まれた逸材だ。
白鷹山は、八百長問題で角界が揺れ、史上初の「技量審査場所」として開催された'11年5月に初土俵を踏む。部屋のホームページにメールを送り、角界の門を叩いた“志願兵”だった。
「父親が、『古い慣習のある部屋よりも新しい部屋がいいのではないか』と心配したんです。体験入門をさせてもらったら、世間で騒がれているようなことはまったくなく、稽古に掛ける真剣味を感じました。クリアでアットホームな部屋だと思え、高田川部屋への入門を決めたんです」
メガネを掛け、年齢にそぐわないほどの落ち着いた佇まいで、白鷹山はいった。
輝、竜電とともに叩き上げとして成長。
高田川親方が育てた関取には、現在幕内で活躍する輝と竜電がいる。ともに中卒の叩き上げだ。竜電は'12年11月、新十両として上がった場所で恥骨を骨折。治療の難しい箇所で、以来3度も痛めたという。序ノ口まで番付を落とすも、4年の歳月を掛けて再び十両に復活。今年初場所では新入幕、敢闘賞を受賞するまでになる。苦労人の愛弟子の新入幕会見で、親方は隣に座る竜電を鼓舞するかのように、きっぱりと言い切っていた。
「竜電の本当の相撲人生はここからがスタートですよ。ケガする前より番付が上がっている。まだまだ、これから10年は相撲を取れますよ」
傍らの愛弟子は師匠のその言葉を、何かを堪えるように噛みしめていた。
先の春場所、千秋楽に勝ち越しをもぎ取った竜電だったが、その姿を見ていた元横綱武蔵丸(武蔵川親方)が、こう口にしていたのを思い出す。
「竜電はいい力士だねぇ。あそこは師匠がいいからね」