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中卒“叩き上げ関取”がまたひとり。
白鷹山を育てた元安芸乃島の心意気。 

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佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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photograph byKyodo News

posted2018/03/31 11:00

中卒“叩き上げ関取”がまたひとり。白鷹山を育てた元安芸乃島の心意気。<Number Web> photograph by Kyodo News

元安芸乃島が育てた白鷹山。じっくりと育てられた大器にかかる期待は大きい。

稽古さえ積んでいれば一気に強くなれる。

 弟子と囲む夜のちゃんこでも、場所中は相撲の話ばかりだ。師匠の傍らに陣取る関取ふたりに、「今日の相撲は――」と切り出し、いつの間にか箸を置き、身振り手振りで熱が入る。

「輝な、こういう相撲を取れれば、負けたっていいんだよ。な?」

 弟子も茶碗を置いて師匠の言葉に耳を凝らし、食い入るような真剣な目でうなずく。

「三度の飯より相撲」――なのだ。

 現役時代は寡黙を装っていた“関脇安芸乃島”だが、実はかなりの饒舌で、ユーモアに溢れてもいる。もの言いはストレートでときに毒舌だが、その周囲には笑顔が絶えない。

 そして何より、確固たる信念と理念を持っている。

「なぜ部屋をやってるかと言ったら、立派な力士を作りたいって気持ちからですよ。うちの力士たちは能力がある。モタモタしていてなかなか上がれなくて、輝も竜電も苦しんでますけど、今回昇進した白鷹山も苦しませてね。苦しんで苦しんで……。若いうちにいい思いをしちゃって、苦労がないと勘違いしますから。強くなるときは、稽古さえ積んでいれば一気に強くなれるもの。稽古場で強くなって、本場所でその力を出せるようになったら、ダダダッと一気に三役まで上がれるものなんですよ」

俺ができなかった優勝もしてもらいたい。

 大関貴ノ花を師と仰ぎ、藤島部屋、のちの二子山部屋の隆盛と栄華を肌で知る。横綱貴乃花、若乃花、大関貴ノ浪、関脇から幕尻に落ちて初賜杯を抱いた貴闘力など、数多の優勝力士を間近に見て来た。

「弟子たちには、俺ができなかった優勝もしてもらいたいですよね。俺なんて恐れ多くて言えなかったけど、『一番上――横綱――を目指す』とうちの力士たちは言うんです。まあ、目指すのは自由だからね(笑)。でも、それには何かを犠牲にして、もっともっと自分を追い込んで、何かを捨てて。そこまでやるからには、やっぱり一番上を目指してほしいんですよ」

 ひとつ屋根の下、角界屈指の猛稽古を重ね、その後は和気あいあいとちゃんこを囲む。古く厳しい昭和の相撲界を知り、酸いも甘いも知り尽くした“叩き上げ”師匠だ。その背中に必死に食らいついてゆく弟子たちは、しっかりと地に足を付け、その親指で土俵の砂をかんでいる。

【次ページ】 白鷹山が新十両記者会見で言ったこと。

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