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日本人ボクサーが海外で勝つ衝撃。
尾川堅一が開いた新しい時代の扉。
posted2017/12/14 11:40
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Kyodo News
9日(日本時間10日)、米ラスベガスのマンダレイベイ・イベンツセンターで行われたIBF世界スーパー・フェザー級王座決定戦で、同級4位の尾川堅一(帝拳)が同級5位のテビン・ファーマー(米)に2-1の判定勝ち。日本人選手のアメリカにおける世界王座獲得は、1981年にWBA世界スーパー・ウェルター級王座決定戦を制した三原正(三迫)以来36年ぶりという快挙だった。
日本人選手がラスベガスで世界王座を獲得する。正直なところ試合の前はピンとはきていなかったし、尾川が勝利するという具体的なイメージも持てないでいた。
その理由の1つは、強打が自慢の尾川にとって、技巧派サウスポーのファーマーは相性の悪いタイプだと思えたからだ。一発炸裂すればKO勝ちだが、攻撃を空転させられ、ズルズルとペースを失い、最後は手がでなくなってしまう……。そんな最悪のシナリオもあり得ると予想した。
そしてもう1つの理由が「日本人選手は海外で勝てない」という先入観である。実際に日本人選手が海外で世界タイトルに挑戦し、ベルトをもぎ取ってきたケースは少ない。ましてや尾川はプライベートも含めて海外に渡航するのが初めてというから、これでは普段の力を発揮できないのではないか、と思ったものだ。
トレーナーは「“神の左”よりも強いかも」。
ところが蓋を開けてみると、そうした心配はすべて杞憂に終わった。
尾川の持ち味は何と言っても攻撃力。特にパンチ力は絶大で、帝拳ジムの大和心トレーナーは、WBCバンタム級王座を12度防衛した“神の左”山中慎介よりも強いかもしれない、と口にしていたほどだ。
尾川は初の大舞台で、多少の空振りは気にせず、力強いワンツーを打ち込み続けた。ファーマーのダッキングもよく読んで、避ける方向にパンチを打つ事前の対策も功を奏した。どんなに強いパンチでも打たなければ始まらない。簡単なようでいて、なかなかできない作業を、尾川は地道に繰り返した。