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日本人ボクサーが海外で勝つ衝撃。
尾川堅一が開いた新しい時代の扉。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byKyodo News

posted2017/12/14 11:40

日本人ボクサーが海外で勝つ衝撃。尾川堅一が開いた新しい時代の扉。<Number Web> photograph by Kyodo News

ラスベガスという場所はボクシングにとって特別な意味を持っている。尾川堅一に早速次なるオファーが来るのも当然のことと言えるかもしれない。

2017年、日本人の海外での世界戦は3勝8敗。

 ファーマーのようなディフェンスに自信を持つ選手は、ガードの上からでも、肩でもヒジでも腹でも、とにかく触られることを嫌う。ファーマーはそれなりに試合を組み立てていたものの、さぞ「嫌だな」と感じながらファイトしていたことだろう。

 試合後に明らかになったコンピューター集計によると、ファーマーの有効打のほうが尾川よりも多かったという。確かに試合は接戦で、スコアは116-112、115-113で尾川、116-112でファーマーと割れた。ただし「ジャパニーズ・ファイターのパンチがより効果的だった」(米サイト、スイート・サイエンス)との見方は、多くのファンに支持されるものだったと思う。

 2017年を振り返ってみると、日本人男子選手の海外における世界タイトルマッチは11試合(米国5、英国2、タイ2、オーストラリア1、中国1)。このうち勝利したのは7月の中国でWBO世界フライ級王者、ゾウ・シミンを番狂わせで下した木村翔(青木)、9月にアメリカで圧倒的な力を披露し、WBO世界スーパーフライ級王座を防衛した井上尚弥(大橋)、それに尾川の3人ということになる。

 通算すると3勝8敗だから、日本選手が海外で強いと言うには憚られる。それでもひと昔前に比べれば、日本人選手が海外のリングに立つケースそのものが増えているし、国内で活躍する多くのファイターがその実力を世界にアピールし始めたことは確かであろう。

「初めての世界タイトルがラスベガスなんてラッキー」

 尾川は試合前、アメリカでの試合について次のように話していた。

「ボクシングを始めたころに、ラスベガスで試合をするなんて思いもしませんでした。でも、今は初めての世界タイトルマッチがラスベガスなんてラッキーだと思っています。勝てば世界中に尾川の名前をアピールできますから」

 尾川が海外を意識するようになったのは、世界ランキングに入り、同門の三浦隆司や亀海喜寛、村田諒太らが世界のリングで戦う姿に刺激を受けたからだ。そして何度もアメリカでファイトしているジムメイトの実体験は、貴重な情報として勝利をもたらすスパイスとなった。

 気候への順応、メディカルチェックやメディア対応、当日の試合進行など、アメリカと日本では、さまざまなルーティンが異なる。こうした情報を、普段一緒に練習している仲間から聞いていたというのは、間違いなく大きかった。

【次ページ】 海外での勝利が“快挙”でなくなる時代が来る?

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