マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“高校球児・中村晃”は邪険だった。
それでも周囲に愛される、素の男。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/01/06 07:00
ソフトバンクで、柳田悠岐に次ぐ出塁率を記録した2016年の中村晃。この安定感は彼が一流の証である。
見送るのかと思うぐらい引きつけて、しばく。
こんな動きのできる一塁手なら、バッティングのほうもさぞ……と思ったら、その技術は、想像をはるかに超えていた。
なかなか打たない。その意味は2通り。
ポイントを投手寄りに置いて、前でポン、なんて打ち方じゃない。ぎりぎりまで体の近くに投球を引きつけておいて、もう打たないのか……と思うほどのポイント、つまり“おへそ”の前ほどの最も力が入るポイントでガツンとボールをたたく、いや、しばく。
そのバットコントロールのすばらしさ。高校生の左打者なら、たいてい誰でも追いかけてしまうサウスポーのスライダーも、自分の左足のあたりまで呼び込んで、左方向へ痛烈に弾き返す。三遊間を抜けていくライナーのスピードは、引っぱった打球よりさらに速く、あっという間にレフトへ達していた。
ストライク、ボールとは違う球の待ち方。
なかなか打たない。もう1つの意味。
これだけのバットマンだ。警戒されてホームベース上にはなかなか投げてもらえないのだが、打ちたい、打ちたいで、ボール球にひっかかることがない。
めったにないストライクがようやく来ても、見向きもしないで見送る場面もあって、フルカウントからの外ぎりぎりをストライクにとられても、悔しがりもせずに平然とベンチに戻っていく。
ストライク、ボールで待ってないな……。
自分が打つべきボールなのか、そうでないのか。中村晃はそんな“選択肢”でボールを待っていた。
だから、「来たっ!」と思った時の爆発力はすごかった。全身の筋肉がバラバラにならんばかりの豪快なフルスイング……そういうんじゃない。
バットの真っ芯で捉える技術と、インパクトの一瞬に全身の力を集中させる技術。中村晃のスイングには合理性があった。
高校生の打者に、技術でうならされる。そんなヤツは、イチローさんは別格として、誰がいただろう。
今なら、早稲田実業高・清宮幸太郎がそうだし、2016年の西武ドラフト4位・鈴木将平(静岡高)がそうだが、当時なら比べる対象もいなかった。
この打者が使えなくて、誰が使えるんだ。それが、私の“評価”だった。