マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“高校球児・中村晃”は邪険だった。
それでも周囲に愛される、素の男。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/01/06 07:00
ソフトバンクで、柳田悠岐に次ぐ出塁率を記録した2016年の中村晃。この安定感は彼が一流の証である。
同期は佐藤由規、唐川侑己、中田翔の「BIG3」。
しかし世の中は、彼が一塁手であることを理由に、一様に評価はそこまでではなかった。
冗談じゃない。松中信彦さん(ダイエー)、中村剛也(西武)、福浦和也(ロッテ)。「和製一塁手」のレギュラーとして立派に務めを果たした先輩たちに、なんら劣るものなし。自信の評価だった。
この年、中村晃と同期の高校球児の中に、当時「BIG3」と評された佐藤由規(仙台育英高)、唐川侑己(成田高)、中田翔(大阪桐蔭高)がいたが、プロではバットで勝負すると聞いていた中田翔には、一度、中村晃のバッティングを見せたいほどだと、何かに書いたことがある。
右打ち、左打ちの違いはあれ、“決めた1球”を決して逃さないスイング軌道の確かさと緊張感あふれるひと振りには、必ず何か感じるものがあったはずだ。
ひと振りと書いて、中村晃が帝京高3年の秋を思い出した。
彼の同僚に、大田阿斗里という名の大型剛速球右腕がいた。雑誌の取材で、彼のピッチングを受けに、帝京高のグラウンドにうかがったことがある。
大きな石でも投げつけられているような痛い捕球感の剛球をさんざん受け止めたあと、ホッとひと息入れている時だ。グラウンドの隅っこで、ネットに向かって黙々とティーバッティングを繰り返す左打ちの選手の姿が私の目に飛び込んできた。
「向こう行ってくださいよ……」と雄弁に語る視線。
こういうものは、探さなくても向こうのほうからこっちの目に飛び込んでくる。
思ったとおり、中村晃の“自主練”。
レガースとプロテクターを着けたままの格好で、音をたてないようにそばへ行った。切れ長の目が鋭い視線を送ってきた。
邪魔だな……。
視線がそう言っていた。
「いいスイングするなぁ、プロで10年、3割打てるよ」
口だけでフンと笑って、「ありがとございます……」そう言ったように聞こえた。左の肩にバットを乗せたままの姿勢で、黙ってこっちを見つめている。次の言葉を待っているわけじゃない。
向こう行ってくださいよ……。
射るような視線は、正確にそう言っていた。プロで働けるヤツって、こういうヤツだ。
「邪魔しちゃったな」
そう言ったら、初めて視線をゆるませた。
相手の心を見透かすような視線。あの目で視線を合わされたら、ピッチャーはイヤだな。
そう思いながら、その場を離れながら、背中でまた聞こえ始めた乾いた打球音の“音色”が何球打っても変わらないのが、私をもう一度、ゾクッとさせてくれた。