“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
インハイ決勝、市船が死闘を制す。
攻勢の流経柏が感じた「怖さ」とは?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2016/08/03 17:30
主将の杉岡らを中心に歓喜を爆発させる市立船橋イレブン。プレミア、選手権の3冠への挑戦権を手に入れた。
「『やられた感』はない。逆にそれが怖いんです」
「中盤の攻防で相手に上回られてしまった。彼らの土俵での戦いになってしまった。相当苦しいゲームでした。こういう苦しくなる展開にしたくなかったからこそ、いろいろ変化させて来たけど、またそのゲーム展開になってしまうのかと……」
試合後、優勝を果たした朝岡監督の表情は、喜びと言うより疲弊に満ちていた。
「1点勝負の消耗戦に引きずり込まれたという印象ですか?」と問うと、「そうですね、彼らの得意分野の中で勝負をせざるを得なかった。ウチはまだまだなんだなと感じた」と優勝コメントとは思えない言葉が返って来た。
だがその姿勢こそ、市立船橋が市立船橋たる所以であった。それを誰よりも良く知る流通経済大柏だからこそ、榎本監督代行も試合後にこう口にしていた。
「チームの完成度で言えば、向こうが明らかに上で、僕たちはまだまだ発展途上の段階。これからも足りなかったものを補いながら、選手権では絶対にリベンジしたい。今日の試合もプレミアリーグの対戦も、決して市船に『やられた感』はない。でも、逆にそれが怖いんです。なぜならば向こうは絶対に油断をしてくれない。だから市船は怖い存在なんです」
市船は慢心してくれない王者だからこそ厄介だ。
流通経済大柏に勝ったからと言って、優勝したからと言って、市立船橋は絶対に気を抜くことは無い。慢心してくれる王者ほど、追う者にとって好都合なものはない。だが裏を返せば、慢心してくれない王者ほど、厄介な者は無い。市立船橋は後者であるからこそ、流通経済大柏はただ悔しがってもいられないし、大会を通じて長所を貫けた自分達に満足してもいられない。
一方の市立船橋にしてみても、流通経済大柏がここで満足するような存在ではないことを熟知しているからこそ、気を緩めている余裕が無いことを理解している。