野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
若虎の未来は本塁打王か、盗塁王か!?
横田慎太郎の底知れぬ成長曲線。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/04/06 10:40
父はロッテで活躍した元外野手の横田真之。917試合出場で727安打108盗塁を記録している俊足巧打の選手だった。
監督直々の助言を鵜呑にみせず、自ら考える。
これにメスを入れたのが金本知憲監督だった。
早くも翌日にマンツーマン指導を行うと、横田はグリップを後方に置いた構えで打ち始めた。金本監督も「割れがなくて、弓を引く感じが出ていない」と指摘。しばらくは指揮官に教わった形で打っていた。
だが数日後、いつの間にかまた、グリップを顔に正対させる構えで打っている……。
ここには横田の覚悟があった。
「キャンプの最初、打てずに状態も悪く、瀬戸際にいました。まずは自分が打てる形で行こうと思って、試合も入っていきました」
柔軟な「変わり身」だった。
金本監督が示した打撃の大切な要素を吸収しつつも、一軍で生き残るため、まずは自らの初志を貫こうとした。この20歳の若者は「自分」を持っている。指導者のアドバイスだけに頼り切り、自分の良さを見失って消えていった若手が、これまでどれだけいたか。横田は違う。指揮官の教えを鵜呑みにせず、かみ砕いて、自らに最も合った形を探そうとしていた。
「最後は自分が決めることや」(片岡コーチ)
確かに試合では、金本監督が指摘したように、グリップを後方に置いて構えている。打撃フォームを試行錯誤する姿を見てきた片岡コーチも、苦笑いしながら明かす。
「キャンプの夜間練習の時とかにも言ったよ。『最後は自分が決めることや』ってな」
言葉で後押しするだけでなく、指導者として技術的なフォローも欠かさない。
「ショートライナーを打て!!」
キャンプ中盤、フリー打撃に臨む際に授けたアドバイスだ。片岡は笑う。
「俺もな、同じような体形やから、よく分かる」
現役時代は188cmの強打者だった。さらに説明を続ける。
「打撃練習で10本に1本すごい打球を飛ばすけど、確率が悪い。去年は右足が少しインステップしてしまったけど、今年は体が少し開いてもいいから、右肩を残して打てればいい。左投手でも打てるし、腕が長いから外角球にも届く」
186cmの横田はスイング軌道がシャープになり、打球の質が変わった。大きく弧を描く弾道から、低く鋭いライナーへ。オープン戦22安打は12球団最多だ。5盗塁を決めるなど、脚力でも開幕スタメンを勝ち取った。