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岩隈久志が練習で貫く「目的意識」。
慎重に、繊細に積み上げる微調整。
posted2016/03/01 10:30
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
岩隈久志の投球フォームは独特で、優雅だ。
捕手のミットを睨む。足を上げ、軸足に溜めを作る。右腕を素早くトップの位置に上げ、左足がマウンドの土をかむと同時に振り下ろす。アメリカ人の投げ方とは明らかに違う、スムーズで滑らかな投球フォーム。淑やかで気品があり、ゆとりさえ感じさせながら、それはお嬢様のような弱々しい感じではなく、時には一瞬の狂気さえ感じさせる。
2月21日のアリゾナ州ピオリアでも、それは同じだった。
マリナーズのキャンプ地で初めて投球練習を始めた岩隈は、「自主トレ時からずっと、上と下のバランスが合ってなかったので」とセットポジションから始めた。まるで高性能のスポーツカーが、ゆっくりと慣らし運転をしているような感じだ。
ところがワインドアップに変わった途端、ブルペンの雰囲気が少し変わる。
「まずは僕のボールの球筋を知ってもらいたいなというのがあったので、全部の球種を投げました。これからやってく内に質と精度を上げて行ければいいし、コントロールとか、高さとかも意識して投げられるようになってくればいい」
新戦力かつ正捕手候補のイアネッタへの心配り。セットポジションからワインドアップに変わると、岩隈のテンポは格段に良くなり、「実戦さながら」とまでは言わないまでも、次第に熱を帯びてきた。
「最初は横にバラついたんですけど、変化球を投げて段々タイミングがあってきて、まとまってきたのはいい収穫かなと思います」
どんな練習にも、はっきりとした目的意識がある。
24日に行われた2度目の投球練習は、さらに緊張感があった。
「今日は試合と変わらないぐらい腕が振れていた。真っ直ぐは90マイルぐらい出たのかなぐらいの感覚だった」
そう岩隈が言うとおり、傍から見ていても球の伸びや切れは前回以上なのがわかる。キャッチャーミットを叩く音が、痛いくらいにブルペンに響き渡っていた。ただし、日本のプロ野球で11年、大リーグでも5年目のベテランだ。どんな練習にもはっきりとした目的意識を持って臨んでいる。