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プラティニは罠にはまったのか……。
欧州に渦巻く陰謀とFIFA不正疑惑。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byREUTERS/AFLO
posted2016/02/19 10:30
2月15日、プラティニはチューリヒのFIFA本部で聴聞会に出席。「間もなく仕事を再開できるだろう」と好感触を示したが……。
自分が捜査の対象とは考えてもいなかった。
だが、当然ながら、プラティニの言い分は真っ向から異なる。というのも彼は領収書をFIFAに送り、税金の申告もおこなっている。彼にとっては、9年前に支払われるハズだったFIFA会長コンサルタントの報酬であり、疚しいことは何もない。だからこそ倫理委員会の査問にも気さくに応じたし、そもそも応じた時点で自分が捜査の対象だとは考えてもいず、2018年と'22年のワールドカップ開催国投票についての証人として喚問されたのだとばかり思っていたのだった。
たしかにプラティニのケースは、他のFIFAスキャンダルとは異なる。FIFA理事であったチャック・ブレイザー(アメリカ)は、自分のカード口座に北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)から3000万ドル近く振り込ませ、2000万ドル以上をケイマン諸島とバハマの口座に送金した。また同じく理事であったジャック・ワーナー(トリニダート・トバゴ)は、CONCACAFが得るハズだった収入を、C.O.N.C.A.C.A.F.という紛らわしい名前の個人口座に振り込ませた。またモハメド・ビン・ハマム(カタール)が行ったのは、FIFA会長選挙における買収工作であり、アフリカ人理事たちが受け取ったのは、2022年のワールドカップ開催をカタールに投票する見返りとしての150万ドルであった。
フランスにおいて絶対不可侵のプラティニ。
プラティニは違う。契約書類が作られてはいなかったとはいえ(スイスの法律では口頭の約束でも契約は有効)、正当な報酬が支払われていなかった。それがあのタイミングになったのは、「たまたまそうなっただけだ」とプラティニは言う。「南アワールドカップの前でも、ブラジルワールドカップの前でも全然おかしくなかった」と。
とはいえもしかしたら、払う側にも受け取る側にも立候補見送りの返礼という含みがあったのかも知れない。「あのとき払わなかったから今払うよ」といったような……。ただ、プラティニ自身は、後にそれが自らの命取りになるとは夢にも思っていなかった。
プラティニは、自覚的に不正を働く人間ではない。金銭への執着もない。彼にはその必要がないからだ。フランスでのプラティニは、絶対不可侵な存在である。周囲を有能な取り巻き(仕事仲間やジャーナリスト、元選手たちなど)に囲まれて、対立する相手からも敬意を払われている。UEFAでもそれは基本的に変わらず、有能な人材に恵まれて気持ち良く仕事をしてきた。思想的には右だが政策は左、社会主義的と言ってもいい。小国や小クラブへの機会均等や再分配など、ヨーロッパの改革を進めたのだった。