Number Do ExBACK NUMBER
“伝説の走る民族”ララムリは、
なぜUTMFを完走できなかったのか?
posted2015/12/22 15:30
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph by
Takeshi Nishimoto
「マジか、これは大変なことになるぞ!」
その情報を聞いた時、私はそう思った。
2015年のトレイルシーンの最大のトピックと言ってもいいだろう。世界的なベストセラー『BORN TO RUN~走るために生まれた』(NHK出版/以降『BTR』とする)に登場した“世界最強の走る民族”と呼ばれるララムリが「日本で、それもウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)に参戦する!」という情報はSNSを通じて瞬く間に広がった。
2013年、彼らが住むコッパーキャニオンに行き、一緒に走ったことがある私は、その縁もあって来日プロジェクトの統括ディレクターを務めることになった。来日準備からレース当日、各種メディア対応や、食事のフォローなど、離日するまでの一切を任されたのだ。
高機能シューズ全盛のこの時代、古タイヤの靴底に革紐だけというサンダルスタイルで走る謎多き民族タラウマラ。あのグランドキャニオンの4倍の規模とも言われるメキシコ北部の大峡谷コッパーキャニオンにひっそりと暮らす先住民族が、当時キャリア絶頂だったウルトラトレイルの帝王スコット・ジュレクを打ち負かすBTRのストーリーは、世界中の人々に大きな衝撃を与えた。
今年のUTMFに参加したのは、そのBTRの主役級の2人アルヌルフォとシルビーノ。本の中の世界と思われていた“伝説”のランナーが来日とあって期待は大いに高まったが、残念ながら歓喜のゴールを迎えることなく、彼らはレースの半分も走らず次々とリタイアしてしまった。
“伝説の走る民族”にいったい何が起こったのか?
ララムリが来日したのは、レース4日前の9月21日。メキシコで、自宅から最寄りのバス停まで7時間歩いたというアルヌルフォは、「十数時間の飛行機の方が苦痛だった」と笑って見せたが、地球の反対側に近い日本に来るのは大変だったのだろう。出迎えた成田空港で彼の足はかなりむくんでいた。
完走出来なかった理由として装備が不十分だったのでは? という声もあった。しかし、大会のレギュレーションに掲げられた全19項目を細かくチェックし、装備に関して問題はなかったと胸を張って言える。
では、なぜ2人はリタイアしてしまったのか? 一体何があったのか? 伝説は、嘘なのか?
大いなる落胆と数え切れない謎を抱えたまま、気がつけば2015年も終了のカウントダウンが聞こえ始めているではないか。
この言いようのない消化不良感をそのままにしたくない、そう思った私は、たったひとつのテーマを掲げて、関係者への連続インタビューを行うことにした。
そのテーマは、「ララムリはなぜ、UTMFを完走出来なかったのか?」だ。