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“伝説の走る民族”ララムリは、
なぜUTMFを完走できなかったのか?
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byTakeshi Nishimoto
posted2015/12/22 15:30
UTMFに参戦した2人のララムリ、シルビーノ(左)とアルヌルフォ(右)。レース前の期待は非常に大きかったが……。
UTMFは彼らの「お口にあわなかった」のか?
「アルヌルフォ(の理由)はね、正直わからない(笑)」
困った顔をしながら内坂さんはデータを見る。
「A1でトップとの差が既に約20分。W1では約1時間半差で68位。本当にスコット・ジュレクを負かした男なのか? と。彼の力からして不思議な順位ですよ」
アルヌルフォは、各エイドでドカっと腰を下ろして、常にゆっくり補給をしていた。やや人見知りのアルヌルフォは、人を寄せ付けない独特のオーラを放ち、プロアスリートばりの“頑なさ”を持ち合わせている性格。
「おそらくね、モチベーション含めて、日本のトレイルが『お口に合わなかった』。そうとしか思えないんだよね」内坂さんは用意したデータをテーブルにそっと置いた。
アルヌルフォのリタイアの瞬間を間近で見ていた人物がいた。彼をサポートした宮地藤雄さんだ。自身もプロトレイルランナーとして活躍する宮地さんは当時をこう振り返る。
「A4(こどもの国)に入ってくるとき、とても見通しが良いので、彼の姿はすぐに分かりました。それまでの区間はマイペースを貫いていたのに、どこか辛そうな姿と言いますか、いつもの悠然とした雰囲気がなかったんです」
渓谷育ちのララムリが漏らした弱音
宮地さんは、サポートエリアに入って来たアルヌルフォをリフレッシュさせようと座らせ、泥で汚れた足を丁寧に拭き始めた。そして、空っぽになったボトルに水を入れ、ザックの中身を入れ替えようとした時、『もういいんだ』と言わんばかりに、アルヌルフォ自ら足首に巻いた計測チップを外したという。
チップを外した直後、アルヌルフォは宮地さんにこう漏らした。「なんでこんなにロードが多いんだ……山ならまだ走れるのに」
勝ちにこだわり、果敢に攻めたシルビーノとは対照的に、アルヌルフォは終始マイペースだった。順位にもタイムにも関心を示さない姿、そして、大きなトラブルもなかった彼にとって、今年のUTMFは『お口に合わなかった』のかもしれない。
ただ、彼の名誉のために付け加えておくが、アルヌルフォは90kmを走り続けた。お口に合わないながらも完走予想タイムとして30時間を軽く切るスピードで。