野球善哉BACK NUMBER
なぜ、走塁はすぐ疎かになるのか。
阪神とヤクルトにある“差”とは?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/04/07 11:00
二塁を駆け抜ける梅野隆太郎。「もう一つ先の塁へ行ける可能性」が頭にあればこそ、守備がもたついた瞬間を見逃さずに走り出すことができるのだ。
俊足ではない梅野が、一塁から一気に生還。
話は6回表の阪神の攻撃に遡る。
2死一、二塁と好機をつかんだ阪神は、8番・大和を迎えた。開幕から不調が続く大和だったが、ここで右中間を破る適時打を放つ。この時の一塁走者・梅野隆太郎の走塁が見事だった。
決して俊足ではない梅野だが、猛然とした勢いでダイヤモンドを回り、本塁まで駆け抜けたのだ。そこには1点ではなく2点目を取るというはっきりとした意思があった。
梅野は自身の走塁をこう回想している。
「打球が抜けた瞬間に、これは(ホームまで)還れると思ったので、真っ先にホームを狙いました。ああいうところで還れるか還れないかで、全然変わってくる。キャッチャーを務める自分にとっても、その後のリードが楽になりますから。
レギュラーとして出ている以上、走塁も意識して取り組んでいます。1点でも多く取れるように、スキさえあれば次の塁、できれば本塁まで還ろうと思っています。大事なことは走塁に興味を持つこと。コーチからはそういわれています」
ランナー一塁からの二塁打で、ヤクルトは還せず。
一方、逆にまずい走塁があったのは、4回裏のヤクルトの攻撃だった。
2死で一塁に田中浩康を置いて、4番・雄平がセンターへ二塁打を放つ。阪神の中堅手・大和が上手く止めたこともあったが、一塁走者の田中は還れなかった。
ヤクルトの福地コーチは「(中堅手の)大和が上手かった」と相手を称えたが、4回裏のヤクルトは無得点で終わり、6回表の阪神は1点だけでなく2点を奪ったのだ。この差は大きい。7回裏にヤクルトが1点を返し、最終的に勝負を分けた8回裏のトリックプレーへとつながったのだが、試合をトータルで見ると、両チームの走塁への意識の差が分けた試合といえた。