野球善哉BACK NUMBER
なぜ、走塁はすぐ疎かになるのか。
阪神とヤクルトにある“差”とは?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/04/07 11:00
二塁を駆け抜ける梅野隆太郎。「もう一つ先の塁へ行ける可能性」が頭にあればこそ、守備がもたついた瞬間を見逃さずに走り出すことができるのだ。
「走塁はそういう“科目”じゃない」
その両者の差は、日頃からの走塁への意識の差から生まれるのではないか。
これは、キャンプからの練習の積み重ねによるものだろう。阪神の三塁ベースコーチ・高代延博に、走塁の意識について聞いた。高代は第2、3回のWBCでも指導にあたった「名コーチ」として知られる。
「打つ・守る・走るの中でいうと、『走塁』が一番難しい。状況を判断していく難しさがあります。僕らは、ゲームに負けたとしたら『なんで、あそこで二塁まで行けなかったのか』とそういう反省ばっかりします。実際走塁というのは、選手が先の塁へ行こうという気持ちでいないといけないので、『常に(次の塁へ)行く気でおれ』という話はしています。
例えば、右中間や左中間に打球がいったら、最初から二塁を狙っていれば二塁はとれますよ。でも最初から狙おうとしてないと、守備がハンブルしても行けない。意思がないからです。意思というのは身体の動きに表れますからね。
ただ、4月1日のヤクルト戦でウチの走塁が良かったから安心かっていうと、走塁はそういうものじゃないんです。走塁は、一度上手くいっても、黙っていたら次もできるかというと、そういう“科目”じゃない。すぐに疎かになる。だから、意識づけを常にやらないといけないんです。個人じゃなくてチームとして、向上心を含めて意識を持たないとだめ。試合ではそうは打てないから、(走塁は)勝つための要因になるんです」
走者一塁からの単打で一、三塁を作れるか、2死二塁からの単打で二塁走者が生還できるか、2死からの長打で、一塁走者がホームインできるか。
小さなことだが、意識の積み重ねが得点に表れ、それが試合を大きく左右する。
その1点は、1点以上の重みをもつことがある。
4月5日の西武対ソフトバンク戦では、西武が2-0でリードの8回裏、2死一塁から2番・栗山巧がレフト線を破る二塁打を放つと、一塁走者の秋山翔吾が長駆生還。続く3番・浅村栄斗の適時打でもう1点を奪い、試合を4-0とした。
9回を迎えて2点差と4点差とでは、チームにかかる負担が大きく違う。この日は西武の守護神・高橋朋己が登板したが、負担は軽減されていたはずだ。さらに、梅野が語っているように、1点でも多く取ることでリードが楽になる側面も間違いなくある。
まだシーズンは9試合を終えたばかり。高代がいうように「昨日できたことが明日もできるか分からない」のが走塁である。
だからこそ、思う。あまり目立たない走塁でどこまで意識を高く保てるかが、最終的にシーズンの趨勢を決めるのではないだろうか、と。