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鹿島で11年通訳を務める男の仕事論。
「通訳の仕事の成果は、試合の勝敗」
posted2014/11/28 10:50
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph by
Noriko Terano
鹿島アントラーズのベンチ前で、小柄な体躯を引っ張るように腕をあげ、大きなアクションと大きな声でピッチへメッセージを送る男がいる。
隣でその男を見守る監督は、時に自身以上に熱い素振りを見せる姿に動じる様子もない。男の仕事への高い信頼度が伝わってくる。
その男の名は高井蘭童(らんどう)。職務上の肩書は通訳。'95年に柏レイソルで初めてJリーグのクラブで仕事を始め、その後横浜フリューゲルス、大宮アルディージャを経て、2003年に鹿島アントラーズにやってきた。
代表監督に就任したジーコの通訳としても活躍した鈴木國弘氏は、1991年から10年近く鹿島に在籍し、メモを取ることなく、まるでジーコが乗り移ったかのように雄弁な語り口で知られる名通訳だった。
そんな大先輩の跡を継ぐプレッシャーは小さなものではなかっただろう。ましてや高井はブラジルに生まれ育ち、10代半ばで来日。両親共に日本人ではあったが、日本語のレベルは挨拶程度だった。来日して10数年が経ったとはいえ、それほど流暢に日本語が操れるわけではなかった。しかも、サッカー選手のキャリアもない。強豪クラブとして、代表選手を数多く輩出する名門での仕事は容易ではなかっただろう。
「そのまま訳すことだけが正しいわけじゃない」
しかし就任から11年間で、4人の監督のもとで仕事を務めてきた。「生きるため、生活のための仕事」と始めた通訳という職をまっとうしている高井。その仕事の核となるコミュニケーション術について話を訊いた。
「通訳というのは、単純に言語を訳す仕事だと思っていたけれど、実際にやってみるといわゆる直訳をするだけでは、うまくいかないことがわかってきました。 “意訳”という言葉を日本の人に教えてもらったのですが、そのまま訳すことだけが正しいわけじゃないと学びました。
ブラジルと日本とでは、使う言語が異なるだけではなく、文化も違う。僕の仕事は、その言葉を発した人間の想いや意図を伝えること。たとえ話をするときも、きちんと想いを伝えるためには、ブラジル流のたとえを、日本流に変えていかなくちゃいけない。
監督通訳の仕事は、監督の意図を伝えること。監督が発信するメッセージを選手に伝えて、監督が思い描くサッカーを選手が体現できるように“仕向けていくこと”が重要だと考えています」