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「世界9位」より重い「ナダル圧倒劇」。
錦織圭が得た“トップ5”という評価。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2014/05/14 11:15
「応援していただいた皆さんにお詫びをしないと」とコメントした錦織。クレーコートで行われる全仏オープン(5月25日開幕)は、コーチのマイケル・チャンが1989年に優勝した大会でもあるので、大いに期待したい。
堅固な守備をこじ開けた、攻撃的なプレー。
故障を抱えていたことが、攻撃的なプレーを引き出したと見ることもできる。互いに探り合う長いラリーの中で、ナダルの堅固な守備をこじ開けるのは難しい。また、ラリーが長くなればそれだけ体に負荷がかかる。だから最初から飛ばしたのだ。無駄をそぎ落とした組み立てで、錦織は最初から攻撃的なショットを打ち続けた。
やるべきことは決まっていた。左利きのナダルのバックハンドに厳しいボールを送り、甘くなった返球をフォア側に展開する。昨年の全仏オープン4回戦でも試みた戦術だ。ただ、このときはナダルの「つなぎ球」が厳しく、錦織は攻撃のチャンスを見出せなかった。今回は違った。錦織のショットの質がナダルを凌駕していたからだ。
チャンスを作るボールも決定打も、ともに素晴らしかった。なかでも、ナダルのフォアを狙う攻撃的なショットが圧巻だった。錦織のバックハンドがナダルの守備網を鋭角的にえぐった。回り込んで逆クロスに打ち込むフォアハンドは予測の逆をつき、ナダルを立ち往生させた。
積み上げた自信と、ままならぬコンディション。
錦織が試合を支配していた第2セット中盤、テレビの画面が興味深いデータを映し出した。グラウンドストロークの平均スピードだ。ナダルの時速114kmに対し、錦織は129km。レーザービームを打ち続ける挑戦者と、腕が縮んでスイングが鈍っていたクレーの王者。ショットの勢いの差がスコアにそのまま表れていた。
錦織のポジション取りも素晴らしかった。ハードコートでの戦いのように、ぐいぐいとベースラインの内側に侵入していく。ポジションを上げればそれだけナダルの時間を奪い、錦織の速攻が効果を発揮する。これも昨年の全仏で、やりたくてもできなかったプレーだった。しかし今回は探り合いの段階を省略し、ラリーの最初からアグレッシブなショットを続けたことで、戦術が狙い通りに遂行できた。
積み上げてきた自信、そして、100%を大きく割り込むフィジカルコンディション。相反する二つの要素が、錦織から一段上のプレーを引き出したと見ていいだろう。
ケガの功名、と言ったらあまりにも響きが軽い。クレーの王者に挑んだ錦織の強い意志がコンディション不良を制し、攻撃的なスタイルをさらに昇華させたのだ。
大会の翌日に更新された世界ランキングで錦織は9位となった。念願のトップ10入りだった。