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「世界9位」より重い「ナダル圧倒劇」。
錦織圭が得た“トップ5”という評価。 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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posted2014/05/14 11:15

「世界9位」より重い「ナダル圧倒劇」。錦織圭が得た“トップ5”という評価。<Number Web> photograph by AFLO

「応援していただいた皆さんにお詫びをしないと」とコメントした錦織。クレーコートで行われる全仏オープン(5月25日開幕)は、コーチのマイケル・チャンが1989年に優勝した大会でもあるので、大いに期待したい。

2008年以来、ナダルからはセットも奪えなかった。

 九死に一生を得たトニコーチは正直だった。通信社の記事が彼のこんな言葉を伝えている。

「我々より、彼(錦織)が勝者にふさわしい」

 ネット上ではこの言葉に異議を申し立てるナダルファンのコメントが飛び交った。しかし、当のナダルも「何度か自分を見失ってしまった」と劣勢であったことを認めている。どう見ても、錦織のケガに助けられての優勝だった。

 これまで一度も勝てず、初対戦の2008年、英国・ロンドンのクイーンズ大会以来、セットさえ奪うことができずにいた錦織が、なぜ世界を驚かせるような試合ができたのか。しかもここは、ナダルの庭であるクレーコートなのだ。

クレーでも、得意のハードのようにプレーすればいい。

 ひとつには、2週前に同じクレーのバルセロナ・オープンに優勝して手にした自信が大きかったはずだ。

 クレーでも、得意のハードコートのようにプレーすればいい、ほんの少しアジャストするだけでいい、そんな仮説を立ててバルセロナに臨み、その通りの解答を得た。方向性を示したのは、今年から参謀役に迎えたマイケル・チャンコーチ。信頼するコーチの言葉の正しさを、結果が裏付けてくれたのだ。

 マドリードでも、勝ち上がるたびに自信が増した。準決勝では世界ランク5位のダビド・フェレールを2時間55分の死闘の末に破った。相手を振り回す展開力。テレビのコメンテーターが「メンタルモンスター」と評した精神力。定評のあるリターンやフォアハンドストロークだけでなく、バックハンドもサーブも大きく底上げされていた。

 プレーの「質」は、ナダルとの決勝でさらに一段上のレベルに達する。準決勝でも試合途中に腰の治療を受けるなど、錦織のコンディション不良が懸念されていた。ところが、主審が「プレー」をコールするやいなや、不安をみじんも感じさせないアグレッシブなプレーの連続。たちまちナダルを追いつめ、コーチのトニは顔色をなくしていった。

【次ページ】 堅固な守備をこじ開けた、攻撃的なプレー。

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