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「世界9位」より重い「ナダル圧倒劇」。
錦織圭が得た“トップ5”という評価。
posted2014/05/14 11:15
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
コートサイドで試合を見つめるコーチ、トニ・ナダルの表情がすべてを言い表していた。
ラファエル・ナダルの叔父でもある彼の目の前にあったのは、にわかに信じられない光景であったはずだ。過去6戦全勝の錦織圭に、ナダルが一方的に叩かれていた。錦織がゲームを支配し、ナダルはそれに対応するだけだった。トニコーチは途方に暮れているように見えた。そのボディランゲージが弱々しかった。
マドリード・オープン、5月11日の男子シングルス決勝で、錦織は世界ランク1位のナダルから第1セットを奪い、第2セットも相手のサービスゲームを先にブレーク、4-2と先行した。ナダルからの初勝利と、マスターズ1000グレード大会での初優勝まで、あと2ゲーム取るだけでよかった。
スペインの観客も、錦織のスピーチに拍手を送った。
しかしこの時、錦織の体は限界に近づいていた。
数日前から痛みの出ていた腰と臀部、さらに下半身全体が悲鳴を上げていた。トレーナーのマッサージを受けたが回復にはほど遠く、結局、4-2以降は1ゲームも奪えず、セットを失う。第3セットに入ると動くことも困難になり、3ゲームを続けて失ったところで棄権を申し出た。
「このような形で試合を終えることになり、残念です。マスターズ1000では初めての決勝で張り切っていましたが、すでに故障をかかえていました。ラファのプレーもよかったと思います。素晴らしい1週間でした。スペインでは、バルセロナでも優勝できましたし、まるで第二の故郷のような気がしています。また、来年戻ってきます」
試合中は一方的にナダルを応援した地元スペインの観客も、錦織の準優勝のスピーチに盛大な拍手を送った。カリスマコーチの一人、ダレン・ケーヒルはツイッターで「錦織を支持する。二人とも勝者だ」と悲運の敗者にエールを贈った。