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<各校エースたちの最終章> 箱根駅伝 「速さだけでは、足りない」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAsami Enomoto/Nanae Suzuki
posted2014/01/21 06:15
左から大迫傑(早大)、服部翔大(日体大)、窪田忍(駒大)、設楽啓太(東洋大)。
駒大のエース、窪田は原因不明の痛みに襲われた。
レース直後、選手の控えテントから上半身裸で出てきた駒大9区の窪田忍は、目を何度も強くしばたたかせながらつぶやいた。
「目がいてえ……」
そして手にしていたペットボトルの水をおもむろに両目にかけた。
痛みの原因は不明だった。ただ、この日の窪田は何かがおかしかった。
往路を終えて、駒大は59秒差で2位。それでも周囲の駒大有利という見方は変わらなかった。その理由は、9区に絶対エースの窪田がいるからだった。
復路を前に駒大の指揮官・大八木弘明も「2分以内で9区につなげば、おもしろい展開になる」と自信をのぞかせていた。
だが、6区で1分17秒、7区で1分54秒と襷をリレーするたびに両校の間隔は広がる。窪田に襷が渡ったときは、3分40秒差まで開いていた。
「最初の1kmの入りが、思っていたより全然遅かった。自分の感覚では2分40秒ぐらいだと思っていたんですけど、実際は45秒ぐらい。体が思うように動いていないんだと思った」
5秒の誤差。わずかだが、自分の調子をはかるには十分だった。
監督の目にも「硬い」と映った。不調のエースは、先頭との差を28秒しか縮めることができなかった。
駒大の最終走者が東洋大から4分34秒遅れでフィニッシュした後、窪田は大粒の涙を何度も落とし、報道陣の質問には無言を通した。
「箱根は箱根の準備をしないとダメだということ」
大八木はエースの不振をこう分析する。
「試合に出過ぎたんだよ。だから箱根に集中し切れていなかった。調整ミスですね。箱根は箱根の準備をしないとダメだということですよ。東洋は箱根に全員、きちんと合わせてきた。そこの差が出たんだと思う」
出雲、全日本と圧倒的な強さを見せた駒大だったが、やはり箱根は別物だった。窪田は「箱根は難しい……」と肩を落とした。
駅伝で勝つにはエースの活躍は絶対条件だ。しかし10人で戦う箱根は、出雲や全日本と比べると、エースの走りが全体のタイムに影響を及ぼす割合は最も低い。したがって、箱根ではエースは速く走るだけでは足りないのだ。