昨年の“山の神”は左足甲の痛みを抱えて走っていた。

　心はすでに、次へ向かっていた。

　5区を制するものは箱根を制する――。

服部翔大　SHOTA HATTORI　日体大
昨年往路優勝のテープを切った服部は今年も5区に登場。1区を走った山中秀仁の区間賞に続きたかったが、1秒差で設楽啓に敗れる。

　その最重要区間で、昨年「神」の称号を得た男は「あんにゃろうめ！」と歯噛みした。

　日体大の服部翔大は前回、1分49秒差の2位でスタート。トップに躍り出ると後続に2分35秒差をつけ、総合優勝の立役者となった。今年もその再現を狙ったが、襷を受けたのは先頭の東洋大が通過して6分31秒後だった。

「できれば3位以内で来て欲しかった。もう、1つでも多く順位を上げるしかなかった」

　その言葉通り7位から4位までに順位を上げたが、そこまでで精いっぱいだった。

　体調もベストではなかった。走りながら何度となく左足太ももの付け根に手を当てた。

「太ももというより、足の甲です。叩こうと思ったんですけど届かなくて……」

　上りは平地のとき以上に地面を強く蹴る。そのため2週間前に捻挫した左足甲の痛みが再発してしまったのだ。

「負けた？　負けたの俺？　あんにゃろうめ……」

　レース後、服部は取材に笑みさえ浮かべながらさばさばと応じた。ところが公式記録が発表されると様子が一変する。速報で東洋大の5区・設楽啓太と同タイムでトップだと伝えられていたのだが、マネージャーから1秒差で負けたと知らされ、表情が強張った。

「負けた？　負けたの俺？　あー、ちくしょう！　負けたか……。まあ、しゃあねえな。ああ、悔しいな！　あんにゃろうめ」

　最後は冗談を装い、殊勝な顔で「相手がいい走りをしたということ」と同じ埼玉出身で高校時代からライバルだった設楽を讃えた。そこには、敗北の悔しさを押し殺すエースのプライドが見え隠れしていた。

「ほんとにきつかった」と東洋大・設楽啓太は言った。

　カサカサに乾いた唇が、寒風の中の激走を物語っていた。

「……ほんとにきつかったですね」

　そう言ってはにかむのは、設楽兄弟の兄で、東洋大のエース設楽啓太だ。

「5区・設楽」が発表されたのは1月2日、往路当日の朝。監督の酒井俊幸は「天候によって別パターンも考えていた」と明かす。

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