ソチ五輪 雪と氷の情熱BACK NUMBER
「スマイルジャパン」の大きな野心。
5カ国対抗戦で得たメダルへの手応え。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakao Fujita
posted2013/11/14 10:30
晴れ舞台、ソチ五輪へ向けて強化が進む、スマイルジャパン。世界ランク10位、メダル獲得は決して非現実的な目標ではない。
長友佑都のお辞儀に似た“ペコリ”でご挨拶。
1対0で迎えた第3ピリオドの49分には、2対1の局面から敵陣でパックを奪い返す場面も作った。そのままネットへ吸い込まれた久保英恵の一撃が、スタンドを沸かせる。
GKを除く5人が輪を作り、笑顔を浮かべながら頭を下げる。サッカー日本代表の長友佑都が、インテル・ミラノで見せるお辞儀に似たパフォーマンスだ。スマイルジャパンでは“ペコリ”と呼ばれている。
2-0で強敵を下した試合後、久保は手応えを口にした。
「1、2戦目は日本のホッケーがあまりできていなかった。今日フォアチェックで崩してシュートへつなげられたのは、自信につながります」
それでも、表情を緩めたのは一瞬だ。「第2ピリオドにハードワークできなかったのは課題です」とすぐに付け加えたのは、チームに息づく向上心の現われだっただろう。「我々の強み、目ざしているものを60分間やってくれた」と評価した飯塚監督も、「今日はコンディションのアドバンテージがあった」と冷静な分析を忘れていない。
最終戦で対戦したドイツには、1-3の敗戦を喫した。とはいえ、4連戦のラストゲームである。この試合ばかりは、コンディションの優位性がドイツにあったと言ってもいい。内容的には互角に渡り合っており、第3ピリオド終盤に6人攻撃から1点を返した反発力は、プラス材料として理解できるはずだ。
フィジカルの劣勢を、俊敏さとスピードで。
ソチ五輪でメダルを獲得するという目標を達成するうえで、「まだ足りないものがある」と飯塚監督は分析する。しかし同時に、「まったくチャンスがないわけではない」とも話している。キャプテンの大澤も、揺るぎない意志を瞳に宿していた。
「ドイツ戦は自分たちのスピードを生かしたプレッシャーがうまく機能しませんでした。メダルをとるにはまだまだレベルアップしなきゃいけない。この4試合で得点力は上がってきたので、そこは自信になっています。チームとしても個人としても最高の準備をして、最高の状態で五輪の舞台に立てるようにしたいです」
フィジカルの劣勢を個人の俊敏さとスピードで補い、組織力と規律に支えられたハードワークを強みとする“スマイルジャパン”のスタイルは、アイスホッケーという枠組みを超えて世界で戦う日本の指針になる。チームの愛称にもなった笑顔の裏側で、彼女たちは大きな野心を抱いている。