野球善哉BACK NUMBER
田中将大を笑顔で送り出すために。
日本の“奇跡のサイクル”を再建せよ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/11/09 08:01
日本シリーズ第7戦、自ら志願して9回のマウンドに立った田中将大。見守るファンも、これが日本で田中を見られる最後だと感じていたのではないだろうか。
指揮官の言葉からしても、ここ最近の報道からしても、規定路線であるかのようだ。
楽天を初の日本一に導いたエース・田中将大のメジャー挑戦である。
日本シリーズ第6戦の試合後、160球完投した田中についての楽天・星野仙一監督のコメントがそれを象徴していた。
「代われと言ったけど、エースの意地があるんだろうね。無理することねぇのになと思ったけど、ファンの前で投げるのが今日で最後だという思いがあったんでしょう」
過去、これほどまでに、メジャー挑戦を容認された選手はいなかったのではないだろうか。
チーム内だけではない。田中と対戦した選手たちも「アメリカで頑張ってほしい」という言葉を残しているのが報道を通して伝わってくる。
日米間での新制度のポスティングシステム締結問題を残すが、この背景にも、田中の今シーズンの活躍が認められたという側面と、時代の流れが大きく変化してきていることの表れであろうと思う。
FAを待たずして、メジャーを目指す。野茂英雄がMLBを目指した時代とは異なり、それは今や球界が受け入れざるを得ない事実となっている。
「空洞化」は起こらず、新たな選手が台頭する。
田中のようなプロ野球のトップ・プレイヤーが活躍の場をMLBに移そうとすると、必ずといっていいほど聞こえてくるのが「日本野球の空洞化」という言葉だ。だが、これまでを振り返ってみると、日本の野球が空洞化したと感じられることはなかったのではないだろうか。
松坂大輔(メッツ)が抜けて、涌井秀章(西武)が台頭したように、上原浩治(レッドソックス)が抜けて、内海哲也(巨人)が成長したように、黒田博樹(ヤンキース)のあとには、前田健太(広島)、ダルビッシュ有(レンジャース)のあとには、昨季のパ・リーグMVP吉川光夫(日ハム)が出てきたのだ。
こうした選手が次々に生まれてくるという野球界の“奇跡のシステム”は、「甲子園」をはじめとする、アマチュア野球のすそ野の広さがあるからだ。
東海大仰星で2番手投手だった上原や上宮高で3番手投手だった黒田が、今でもMLBで活躍しているという事実は、日本の野球レベルの奥深さそのものを示している。
黒田は、高校時代に甲子園に出られなかった悔しさを糧に専修大で努力を重ね、今の地位をつかんだ。「甲子園」という舞台とその後の大学野球の経験が彼らを大きくしたのである。