野球善哉BACK NUMBER
田中将大を笑顔で送り出すために。
日本の“奇跡のサイクル”を再建せよ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/11/09 08:01
日本シリーズ第7戦、自ら志願して9回のマウンドに立った田中将大。見守るファンも、これが日本で田中を見られる最後だと感じていたのではないだろうか。
アマチュアの最高峰「甲子園」で噴出した問題。
また、今年は「甲子園」というアマチュア最高の舞台で、物議を醸す出来事が多かった。
そのうちの一つが、済美高の2年生投手・安楽智大がセンバツ大会の2回戦で232球を投じたことである。このことに対し、日米のメディアを巻き込んで大論争になった。
しかし、この論争で何よりも驚いたのは、疑義を申し立てていたのがアメリカのメディアばかりで、日本のプロ野球界から、日本のアマチュア野球での投手の酷使について語られることはなかった。
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安楽はこの試合のあとも投げ続け、センバツ大会ではトータル772球を投じた。たった9日間の間にである。彼は夏の甲子園も出場し、ベスト16に進出。そして、高校2年生ながら、U-18日本代表にも選出された。U18世界大会の準優勝にも貢献した。
その後の秋季愛媛県大会で右ひじに違和感を覚え、チームとともに、地区予選で敗退したのは記憶に新しい。
安楽は一例だが、昨今アマチュア野球の取材をしていると、安楽とはいわないまでも、甲子園常連校のエースで、下級生時は活躍しても最終学年になると怪我を抱えて登板できない、という事例が散見される。また同様の事態は高校だけではなく、中学校、小学校でも同様に起きており、ひどい場合には肩や肘に手術を要するほどの故障を負うことさえ珍しくなくなってきているのである。
「ここ数年、私立の選手が伸びなくなってきた」
ある大阪の高校の指導者がこんな話をしていた。
「ここ数年、公立校が私学に勝つことが増えてきた。でも、それは公立校が強くなってきたのではなくて、私立の選手が伸びなくなってきたという現状がある。毎年『今年の1年生はいい』と言っていても、上級生になるとその選手がいないんです。大阪桐蔭や履正社など突出したチームは相変わらず強いけど、それ以外の私立なら、公立が普通にやっていてもいい勝負になる」
ただそれは、そうした学校の指導者の資質云々だけではなく、指導者の裁量だけに全てが任されてきた、野球界全体の問題であろう。資格制度を含めた、指導者のあり方を議論するべき時が来ている。