詳説日本野球研究BACK NUMBER
4強に揃った顔ぶれが表す変化。
高校野球の勢力図に何が起こった?
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/08/21 10:31
予想外の乱調で1回戦で姿を消した浦和学院の2年生エース・小島和哉(左)。仙台育英相手に9回1死までこぎつけるも左足がつり降板。10-11のサヨナラ負けに泣き、森士監督に宥められた。
エース飯田を欠き、エラーも絡み敗れた常総学院。
準々決勝第3試合の前橋育英対常総学院戦は、今大会一番と言ってもいい熱戦だった。前橋育英は3試合連続自責点0(失点1)を記録した2年生エース、高橋光成ではなく、同じ2年生の喜多川省吾を先発のマウンドに送った。5回投げて3安打2失点という内容は十分に期待に応えた内容と言ってよく、6回からは高橋がリリーフに立った。
ここから常総学院・飯田晴海と息詰まる投手戦が演じられるのだが、飯田の出来のよさから見て2対0のスコアのまま最後まで行くだろうと思った。斜めに空気を切り裂くようなスライダーのキレは高校生クラスを遥かに越え、ここにチェンジアップ、ツーシーム、カーブを交え、さらにキレのあるストレートで緩急をつけるピッチングは大げさでなく一分のスキもなかった。
ところが9回に入る前の投球練習中、屈伸を繰り返す飯田を見て異変が起こったことを知った。ベンチからは紙コップに入った水が2杯運ばれたが症状は改善されず、飯田は打者に2球投げただけで降板してしまった。
代わりにマウンドに上がった2番手投手の金子雄太はよく投げ、2者を凡打に打ち取り、5番打者も二塁ゴロに仕留めるのだが、二塁手がこれをエラーして走者が生き、後続の打者が長打を2本つらね、同点に追いついた。
流れは完全に前橋育英に傾き、延長10回裏の1死二、三塁のチャンスに3番土谷恵介がサヨナラ安打を放ち、熱戦に終止符は打たれた。野球の面白さ、怖さをこれほど鮮明に見せてくれるゲームは少なく、試合後私はしばらく茫然として何も手につかなかった。
次々とニュースターが生まれる、甲子園大会の底力。
延岡学園対富山第一戦ではこんなことがあった。4対4の9回表、富山第一は1死一、三塁のチャンスを迎える。ここで2番打者が二塁ゴロを打って4-6-3の併殺が成立するのだが、その少し前、ブルペンで投げていた投手の暴投した球が外野フェアゾーンに転がるのを見て線審がタイムを宣告した。それには誰も気づかずプレーは続行したわけだが、線審がタイムを宣告した時点でボールデッドになるので併殺プレーは認められず、1死一、三塁の場面からゲームは再開された。
こういう打ち直しのケースでは往々にして快打が飛び出すものだが、延岡学園の3番手・奈須怜斗は冷静に2人の打者を三振に斬って取り、延長11回裏のサヨナラ劇につなげた。
駆け足でここまで熱戦を振り返ってみたが、大会前は大物左腕の松井裕樹(投手・桐光学園)や超高校級スラッガー・渡辺諒(遊撃手・東海大甲府)などスター選手が地区大会で姿を消し、見どころが少ない大会と言われていた。しかし大会終盤には高橋光成(前橋育英)や飯田晴海(常総学院)というニュースターも生まれ、改めて甲子園大会の底力を思い知らされた。気は早いが、5年後の第100回記念大会はどんな盛り上がりになるのか、今から気持ちが騒いで仕方がない。