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望みは買い目よりも淡い共感――。
雨の大井競馬、予想屋の“告白”。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byMasakazu Takahashi

posted2013/05/02 10:30

望みは買い目よりも淡い共感――。雨の大井競馬、予想屋の“告白”。<Number Web> photograph by Masakazu Takahashi

羽田盃を勝ったアウトジェネラルは単勝3.9倍の2番人気。2着には3番人気のソルテが入り、単勝1.5倍で圧倒的1番人気のジェネラルグラントは4着に終わった。やはり競馬の予想は難しい。

 大井のナイター競馬にはじめて行ったという人に感想を聞くと、「予想屋が面白かった」という答えが返ってきた。

 中央競馬にはなくて地方競馬にあるもの。それは場内にいる予想屋諸氏である。彼らは「場立ちの予想屋」などと呼ばれる。場立ちというのは本来は株の世界の言葉で、証券取引所の中に立って、叫んだり指で合図したりして売り買いをする人たちをいうらしいが、本家はコンピュータ取引が定着していつの間にか消えてしまった。今は競馬など公営ギャンブルにだけ生息している。

 しかし、予想屋が面白いか。たしかに、自分の体験でも、はじめて見たときは驚いたし、興味も感じた。一人ひとりの語り口や予想のアプローチが違うのも面白かった。だが、やはり競馬場は自分の馬券が第一である。予想屋諸君の買い目に従って当たったとしても喜びは半減する。それにいちいち聞き入っていてはパドックや返し馬の具合を観察したり、オッズを確認する時間もなくなる。そんなわけで、いつの間にかのぞいてみることはなくなった。地方の競馬場に行っても、売店と同じような風景のひとつとしてしか見なくなっていた。

閑散とした雨の大井、熱気のない予想屋のブース。

 だから、はじめて見て面白かったという言葉を聞き、あらためてどんな予想を売っているのか聞いてみたくなり、大井に出かけてみた。

 大井の皐月賞ともいわれる伝統ある羽田盃の日。昔なら日が落ちる前からごった返していたものだが、この日は時折強い雨が降る天気もあって、場内は重賞の日とは思えないほど閑散としていた。屋根つきのスタンドにホワイトボード、そこに演説台みたいなものが据えられていて、予想屋諸君は立っておのおのの見解を語る。スタイルは昔も今も変わらない。

 昔は人気のある予想屋には100人近い「聞き手」が集まり、貴重な情報はないかとにじり寄るようにして講釈に耳を傾けたものだが、この日はそうした熱気を感じるブースはなかった。多いブースでも聞き手は15人ほどで、1レース200円の予想を買っていく人も10人には届かないように思えた。

【次ページ】 つぶやくような“語り”に時代の変化を感じ取る。

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