プロ野球亭日乗BACK NUMBER
CSでの苦しみが呼んだ巨人の快勝。
内海と吉川の明暗を分けたものとは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/10/28 12:25
日本シリーズ初戦の4回、巨人が阿部慎之助の技ありの一打で1点を先制すると、2死一、二塁からボウカーが3ランホームランを放ち、試合の趨勢を決した。投げては先発の内海哲也が7回無失点の好投。原監督は「ジャイアンツのエースらしい投球を、堂々とやってくれた」と称賛した。
かつて、日本Sでは偶数戦必勝主義が言われたが……。
かつて短期決戦の日本シリーズでは、偶数戦必勝主義がさかんに言われていた。2戦、4戦、6戦をとって3勝3敗で7戦に持ち込む。日本シリーズは4つ勝てば日本一になれるが、逆に言えば3つまでは負けられる戦いだという考え方から生まれた戦略だった。
V9巨人の川上哲治監督、西武黄金時代を築いた広岡達朗、森祇晶両監督などはこの論の信奉者だった。
そのため第1戦ではスコアラーの集めたデータを実戦の中で確認することに重きが置かれた。先発には制球力のいい投手を起用し、相手打線のデータ収集に神経を注いだ。1試合を捨ててでも残り6試合で4勝するための布石を打つ。そこに初戦の意味があると言われた。
だが今の野球はビデオなどのデータも豊富にあり、交流戦で実際に対戦する機会もある。
「ならば先手必勝。先に先に白星を先行させた方が絶対に有利になるので、初戦の持つ意味が非常に重くなっている。ただ、短期決戦といわれるシリーズですが、実はその中で何度も勝負の流れをやり取りする長丁場なんです。必ずどこかで流れが逆流してしまう可能性がある場面がくる。そこでどう主導権を相手に渡さずに乗り切れるか。また、渡したとしても再び取り戻す局面を作れるか。そこが勝負になる」
原監督はそう語った。
CSで苦しんだ巨人が、その苦しみを糧にまずは先手を取った。
だが決して簡単には終わらない。
勝った原監督も、敗れた栗山英樹監督も、胸に秘める思いは同じはずである。