プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「野球という生き物」が統一球で変化。
指揮官に必要な脱“常識”采配とは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/20 10:30
8月半ばにして勝率が6割を大幅に超えている原巨人。その背景には、圧倒的な戦力のみならず、統一球導入後の野球に対応した指揮官の采配もあるようだ。
「野球は生き物だ」
こう語ったのは巨人の長嶋茂雄終身名誉監督だった。
自身も監督時代にセオリーを超えた独特の采配を“カンピューター野球”と揶揄されたが、その反面、「生き物」を相手に、それまでの常識を打ち破る作戦を次々と敢行。1点を追う9回2死一塁で走者を盗塁させて、ワンヒットで同点に追いつく――今ではセオリーとなっているこの作戦も、若き日の長嶋監督のタクトから生まれたものだった。
固定観念にとらわれてしまうと、勝利は手の中からスルリと逃げていってしまう。生き物である野球を相手にするのだから、その息づかいを読み取って、状況に応じて臨機応変に対処しなければならない。ミスターはそのことを説いていたわけである。
今年の巨人・原辰徳監督の采配をみていると、改めて「野球は生き物」であり、古い固定観念を捨て去ることの大切さを感じる。
タブーをつぎつぎに打ち破る原采配に集まる批判の声。
実は今年の原采配には、批判が絶えない。
いくつかを列挙してみよう。
(1) 4月15日の横浜戦で4番の阿部慎之助捕手に送りバントをさせたこと。
(2) 7月1日の中日戦にルーキーの田原誠次投手を初先発させながら、2回に満塁のチャンスをつかむと代打を送って降板させたこと。
(3) 8月2日の中日戦でそれまで63試合で4番を打っていた村田修一内野手の打順をいきなり7番に下げたこと。
(4) 8月7日の阪神戦で長野久義外野手を先発から外したこと。
こうした采配には、周囲から様々な批判の声が聞こえている。
「4番の阿部に送りバントでは、やる気をなくさせるだけではないか?」
「せっかく若手を先発に抜擢しても、2回で交代させたら育つ選手も育たない」
「いきなり7番を打たされたら村田のプライドがズタズタではないか」
「いくら阪神の先発が相性の悪いメッセンジャーだからといって、先発から外したりしていたら長野が中心選手には育たない。ましてやその前のDeNA戦で長野は好調だっただけになおさらだ」
まあ、こんな声が主たる批判だったと思う。いずれもこれまでの“常識”からは、タブーとされていた采配、選手起用かもしれない。