野ボール横丁BACK NUMBER
バッター田中将大を堪能する。
交流戦のちょっと変わった楽しみ方。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/17 12:00
剛速球を投じるピッチャーが打撃センスも高い理由。
彼らはいずれも、いわゆる「怪力」の持ち主ではない。ただ、一点に力を集約させることに関して類い希な才能を持っているのだ。彼らが150キロを越えるボールを投げることができるのは(斎藤のMAXは149キロ)、要はそういうことなのだ。
それにしても、高校時代、バッティングの才能も持ち合わせていた投手はどうしてみんなパ・リーグに行ってしまうのだろう。
その最たる例が、横浜高出身の松坂大輔(西武-レッドソックス)だった。彼にあって、田中や涌井やダルビッシュにはないもの。それは打つことが、投げることに勝るとも劣らないほど好きだということだ。ドラフト前、松坂が在京のセ・リーグにこだわったのは、実は打席に立ちたかったからだった。
アメリカに渡ってからも、残念なことに、松坂はDH制を採用しているアメリカン・リーグに行ってしまった。
メジャーでは身体能力の高い選手はショートの強打者に。
こんな逸話がある。神奈川県内のある強豪校の監督が、アメリカに野球の勉強をしにいったとき、現地で松坂の高校時代の映像を見せたそうだ。すると、アメリカ人は一様に「なぜ彼を野手にしないのだ」と驚いたという。投げているシーンばかりだったとはいえ、その身のこなしから、松坂の身体能力の高さを見抜いていたのだ。
日本では身体能力の突出した選手は大抵、ピッチャーを任される。一方、アメリカではショートをやるのが一般的だ。それで、3番を打つ。ヤンキースのアレックス・ロドリゲスなどがその典型だろう。マリナーズ、レンジャーズ時代、A・ロドリゲスは主にショートを守っていた。
松坂がもしセ・リーグの球団に所属していたら――。それこそ、通算で2桁ぐらいホームランを打っていたのではないだろうか。そう思うと、返す返すも残念でならない。
ピッチャーだからといって、打席でまったく打つ気を見せない選手を見ていると、だったらいっそのこと両リーグともDH制にしてしまえばいいのにと思ってしまうこともある。でも、そうなってしまったらしまったで、やはりつまらない。いつまた、松坂や田中や涌井のような選手が現れるとも限らないし、その選手がたとえパ・リーグに入ったとしても、今はこうして交流戦だけでもその選手の打席を楽しむことはできるのだから。