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<W杯に続く頂点を目指して> なでしこジャパン 「世界女王が踏み入れた“未知の領域”」
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2012/07/10 06:02
発表してきた特別連載「LONDON CALLING~ロンドンが呼んでいる~」。
7月27日の開幕に向け、このシリーズを全文公開していきます!
今回は、なでしこジャパンこと女子サッカー日本代表。
Number800号(3月22日発売)掲載のアルガルベ杯密着ドキュメントには、
五輪に向けての収穫と課題がつぶさに描かれています。
ほんの4年前のことなのに、隔世の感がある。
2008年、就任したばかりの佐々木則夫監督がまずチームに授けた戦術が、選手が連動して相手ボールにプレスをかけるゾーンディフェンスだった。そしてその目的は、〈欧米の強豪チームの長所――個々の身体能力の高さ――を消す〉ことにあった。
ところが今回、ポルトガルでなでしこが繰り返した練習の主眼になっていたのは、〈日本の長所を相手が消しに来た場合、いかにそれを凌駕するか〉である。
トレーニングのテーマが、まったく逆転しているのだ。
日本の持ち味であるパスワークを封じ込めようと、これからは対戦国が強固なブロックを形成してくることが予想される。そうした敵の守備網をかいくぐってシュートまで持っていくため、佐々木はアルガルベカップでの試合とトレーニングで、新たな攻め手のバリエーションを増やそうとしていたわけだ。
女子W杯優勝によって、今やなでしこの方が世界各国に研究される対象になってしまったのである。
果たしてアルガルベカップでの全4戦、対戦国はさまざまな形で日本を“意識”していた。
新しい取り組みをチームとして表現できなかったノルウェー戦。
グループリーグ第1戦の相手ノルウェーは、展開力のあるベテラン選手のステンスランドが負傷で出場できず、攻撃に多くを望めない状態だった。そのため布陣を全体に下げ、日本の攻撃に耐えながら一気にカウンターを狙うという守備的な戦い方を選択してきた。つまりなでしこが練習の成果を試せる、格好のテストケースとなったのだ。
ところが日本はなかなか敵の守備ブロックを崩せないどころか、先制点まで許してしまう。最終的に2得点を挙げて2-1と逆転勝ちしたものの、1点目はノルウェーDFの初歩的なマークミスが原因だし、川澄奈穂美の決勝点はミドルシュートが相手DFに当たり、角度が変わって入ったもの。このゴールについて川澄は、こう語った。
「いい場所でボールを持てたので、しっかり足を振った」
引いた相手を崩し切れない時は少し遠めからでも積極的にシュートを打ってみる、というセオリーを実行したわけだ。だがつまりそれは、なでしこの新しい取り組みをチームとして表現できなかったことも意味していた。
逆にノルウェーとしては、敗れこそしたものの、ほぼ注文通りの試合運び。自チームのベンチからこの試合を見つめていたステンスランドは、帰りのバスに乗り込む前、「日本にスペースを与えない、という私たちの作戦はうまくいっていたんだけど……」と、悔しさをにじませた。