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<W杯に続く頂点を目指して> なでしこジャパン 「世界女王が踏み入れた“未知の領域”」
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2012/07/10 06:02
デンマーク戦で見せた、“これぞなでしこ”のゴール。
続いて当たったデンマークは、大会開幕前に指揮官のハイナーメラーが、「我々も日本のようなスタイルを目指している」と語っていた通り、本家に対して真っ向からパスサッカーを敢行してきた。
しかしボールを支配したのは、ノルウェー戦から先発8人を入れ替えて臨んだ日本だった。代表での試合経験が少ない選手が主体であったにもかかわらず、なでしこ本来のテンポのいいパス回しや連動したプレスを安定して披露し、終わってみれば2-0。相手を囲んで奪ったボールを右オープンに展開し、オーバーラップした近賀ゆかりからのクロスを菅澤優衣香がニアで合わせた先制点は、これぞなでしこのゴールだった。
もっとも、明暗が分かれた北欧勢との2試合におけるなでしこのパフォーマンスは、それぞれ注釈つきで判断しなければならない。
ノルウェー戦は、オフ明けで迎える久々の国際試合。しかも大会初戦である。主戦組といえど、頭も体もまだほぐれていない状態であったことを、差し引いて考えるべきだ。
そしてデンマーク戦は、相手の基礎技術が明らかに劣っていた。チームとしてポゼッションサッカーを標榜してはいても、デンマーク選手はトラップミスやキックミスから簡単にボールを失い、守備でも寄せの甘さが目立った。ハイナーメラー監督も、日本選手との能力差がまだまだ大きいことを率直に認めていたほどだ。
アルガルベカップで、現時点のなでしこの真価が測れた試合。それはやはり、世界ランク1位であるアメリカとのグループリーグ最終戦と、同2位のドイツとの優勝決定戦である。
「アビー(ワンバック)だけは、男子大学生も吹っ飛ばすけどね」
アメリカは昨夏のWPS(国内プロリーグ)シーズン終了以降も、全米各地での代表合宿や国際試合を積極的にこなしてきた。今年に入ってからは1月に五輪北中米カリブ海予選を戦って危なげなく優勝し、2月にはニュージーランドと親善試合を行なっている。
今季のWPSは、クラブオーナー間の訴訟問題から活動休止となった。代表クラスの選手はアメリカサッカー協会が直接雇用し、平均すればひと月のうち半分は代表活動に費やしている。とはいえ、やはりWPSのように頻繁に真剣勝負を行なえるわけではない。そこで選手の試合勘を鈍らせないため、今季の代表チームは定期的に、15~17歳の男子選手で構成された合宿地の州代表やクラブチームと練習試合を行なっている。このぐらいの年齢層が相手として釣り合いが取れるらしい。ただしアメリカ協会の広報によれば、
「アビー(ワンバック)だけは、男子大学生も吹っ飛ばすけどね」
とのこと。
だがトップフォームで大会3戦目を迎えたはずのアメリカは、〈女子W杯決勝のように、相手に序盤のペースを握らせてはいけない〉と事前に確認し合っていたなでしこに、試合開始早々から圧倒される。2トップのワンバックやモーガンがプレスをかけに行っても、日本はセンターバックの岩清水梓やボランチの阪口夢穂、田中明日菜らが次々にフリーの味方へパスし、あるいは巧みなターンで体を入れてブロックしたりとボールに触らせない。逆にアメリカ選手がボールを回そうとしても、日本は即座に連動したプレスをかけ、楽々と奪い取るのである。
すると、この展開に業を煮やしたスンドハーゲ監督は前半途中から、「もっとダイレクトに!」と指示を飛ばし始めた。ここ最近のアメリカは日本に触発され、中盤での組み立てに細かなつなぎを取り入れ始めている。しかしそれを放棄し、前線への放り込みを軸とした攻めに切り替えたのだ。