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<W杯に続く頂点を目指して> なでしこジャパン 「世界女王が踏み入れた“未知の領域”」
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2012/07/10 06:02
技術によって世界ランク1位のアメリカを圧倒。
作戦変更は、確かに有効だった。ワンバックは遅れて競り合ってもハイボールをものにするし、モーガンは一気にマーカーを振り切るスピードを持っている。この2人の個人能力で、何度か決定的チャンスを生み出した。
だがそれも、なでしこがパスの供給源を封じ込めるまでの話。後半に入って永里優季や宮間あや、大野忍らがプレスの圧力を再び強めると、2トップへもなかなか質のいいボールが届かなくなる。ほどなくワンバックは途中交代。コーナーキックから高瀬愛実の決勝ヘディングゴールが生まれたのは、アメリカのエースストライカーがピッチを去ってから11分後のことだ。
翌日、スンドハーゲは0-1で日本に敗れた戦いを振り返って言った。
「多くの時間帯でボールをキープされて、精神的にも体力的にもストレスのたまる試合だった。日本選手のボールタッチの素晴らしさといったら……世界のお手本になるプレーだったわ」
彼女によればアメリカ選手がなかなか日本選手との間合いを詰められず、ボールを奪えなかったのは、疲れよりもむしろ、「相手のパス回しにナーバスになっていた」からだという。パワーやスピードでなく、なでしこは技術によって世界ランク1位国を怯えさせていたのだ。
その象徴といってもいい澤穂希は、アメリカ戦当日に急遽、体調不良のため出場を取りやめている。そしてドイツとの優勝決定戦、ベンチ入りメンバーにさえ彼女の名前はなかった――。
佐々木監督の指示に忠実になりすぎて招いたピンチ。
ドイツは、アメリカと全く逆の試合の入り方をした。鋭い出足で日本に圧力をかけると、前半20分に右クロスをボレーで流し込んで先制点。その2分後にはコーナーキックからヘディングシュートを叩き込み、瞬く間に2点のリードを手にした。
ドイツ戦前、佐々木監督は選手にこんなアドバイスを与えている。
「お互い4-4-2の陣形だから、がっちりマッチアップしてボールの流れが悪くなりがち。ボランチは機を見てディフェンスラインに下がるなどして、パス回しを工夫するように」
だがこの指示に宮間、阪口の両ボランチが忠実になりすぎ、DFラインだけでボールを回せる状況でもボランチが下がってきて、自陣ゴール前に多くの選手が残る状況を招いてしまった。だからドイツは、どんどん前掛かりになってきたのだ。
しかも全体の連動が鈍く、プレスもかからない。日本には珍しく、単純なキックミスやトラップミスも連発。岩清水はこの時、〈さすがに4戦目だから、みんな体が重そうだな〉と感じていたという。