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厳格な規準がメダルの可能性を奪う!?
競泳で考える五輪代表の選考方法。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAtsushi Tomura /AFLO SPORT
posted2012/04/16 10:30
「初めての優勝は嬉しいですが、あと0.5秒で五輪に行けなかったのが辛い」。日本一になったにもかかわらず五輪出場を逃すことになり、優勝者インタビューで落胆する男子1500m自由形の山本耕平。
現在の選考基準なら岩崎恭子の金メダルは幻だった!?
それに1992年、選考会の女子200m平泳ぎで2位に入った選手が、数カ月後のオリンピックで金メダルを取った例がある。
岩崎恭子だ。
もし、当時、厳格な派遣標準記録が定められていたとしたら、彼女は代表に選ばれなかったかもしれない。中学生、高校生は数カ月で飛躍的に記録を伸ばす可能性があるのだ(突如、ナショナルレベルのコーチングを受けて才能が開花する)。
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派遣標準記録を重視する姿勢は、こうした可能性の芽を潰してしまっているのではないか、というのが私の考えだった。
派遣標準があるからこそ世界で戦える──という考え方。
しかし、選手の強化にたずさわる現場のトップコーチたちに取材すると、派遣標準記録の設定に肯定的だ。
「派遣標準記録があるからこそ、世界レベルで戦えていることも忘れてはいけないよ」という意見が多く聞かれるのだ。
もし、記録が定められておらず、過去の慣例に従って上位2名が自動的にオリンピック出場、ということになったとしたら、全体的にレベルが下がりかねない。そうした危惧を抱いている。
派遣標準記録の設定がレベルを高めている種目も確かにある。平泳ぎだ。
北島が牽引してきたことも大きいが、男子では立石諒、女子では鈴木聡美、松島美菜、渡部香生子がハイレベルの記録で代表となった。また、代表入り出来なかった選手も派遣標準記録を突破しており、来年以降も十分に世界と戦える予感に満ちている。
一方で、男子自由形を見ると、派遣標準記録が日本記録を上回っている場合も少なくなく、初めから「諦めモード」に入ってしまい、なかなか強化が進まない。所属によっては、中学生レベルで自由形向きの選手がいたとしても、「自由形では世界が遠い」ということで、バタフライや背泳ぎを専門にしてしまう場合もある。