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ア・リーグMVPのジョー・マウアーは、
なぜ“満票”選出されなかったのか? 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGetty Images

posted2009/12/05 08:00

ア・リーグMVPのジョー・マウアーは、なぜ“満票”選出されなかったのか?<Number Web> photograph by Getty Images

デトロイト・タイガースを「タイブレイク」で破り、プレーオフ進出を喜ぶマウアー。今季成績は打率.365、自己最高の28本塁打、96打点。出塁率と長打率の和であるOPSは10割を超えた

ファンも同業者もその理由を説明して欲しいと思っている。

(2) 説明義務の忌避

 というわけで、ファンは、なぜカブレラを1位にしたのかについて、小西記者から説明を聞きたいと思っているのだが、同記者はこれまで、一切の説明を怠っている。

 私が知る限り、ニューヨーク・タイムズ紙のタイラー・ケプナー記者、ニューズデイ紙のケン・デイビドフ記者の少なくとも二人が、「説明を求めるE-メイルを送ったが、返事が来なかった」と書いているが、同業者からコメントをリクエストされた場合、速やかに答えるのは当地では最低限のマナーであるだけに、小西氏の沈黙は目立たざるを得ない。

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 たとえば、ESPNのキース・ロウ記者。ティム・リンセカムがクリス・カーペンターを僅差で抑えたナ・リーグ・サイヤング賞の投票で、カーペンターを票からはずしたことについてカージナルス・ファンの猛批判を浴びた。しかし、小西記者とは正反対に、ロウ記者は入れなかった理由について、記事で説明しただけでなくテレビカメラの前でもきちんと説明した。

 ファンも、メディアも、小西氏の説明を、首を長くして待っているのである。

取材記者と選手の関係が近すぎて利害相反に陥る恐れも。

(3) 利害相反の疑い

 小西記者がイチロー取材の「第一人者」であることは周知の事実である。

 たとえば、スポーツ・イラストレイテッド紙の看板コラムニストだったリック・ライリーが、2001年に、小西記者が日本の記者達の質問をイチローに取り次ぐ様をユーモラスに描写するコラムを書いたことがある。イチロー取材における小西記者の特別な役割は米国人記者にも注目されてきたのである。

 さらに小西記者は、イチローの公式サイトに記事を執筆するなど、同選手との関係は、単なる取材対象としての域を超えるものがある。イチローとの特別な間柄が公平な投票を損なったと懸念される所以である。

 一般に、公の業務に縁故や個人的な利害関係をからめる行為は「利害相反(conflict of interest)」と呼ばれ、当地では忌み嫌われている。

 利害相反に巻き込まれない最善の方法は「疑い」を抱かれる状況に身を置かないことに尽きるのだが、逆に言うと「疑い」を持たれた時点では、もうすでに利害相反が生じているとみなしてよいのである。

 たとえば、ニューヨーク・タイムズ紙も、ロサンゼルス・タイムズ紙も、所属記者がMVPやサイヤング賞の投票に関わることを禁止しているが、取材対象である選手との公平な関係が損なわれ、記者が「利害相反」の立場に立たされるのを危惧するからに他ならない。

【次ページ】 ファンからも記者の立場を疑われるようになっているが……。

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