MLB Column from USABACK NUMBER
トレード市場最大の目玉商品。
ロイ・ハラデーの「値段」。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/07/14 11:30
ハラデーは高校を卒業した'95年にドラフト一巡目で入団。メジャー昇格後にマイナー落ちも経験するが、'03年に22勝を挙げて以降はチームの柱として安定した活躍をしている。
7月31日のトレード期限まで、あと3週を残すのみとなった。
プレーオフ出場を狙うチームが「いま勝ちたい、すぐ勝ちたい」と、即戦力補強をめざす一方、諦めたチームは「将来に備える」ために、スター選手と引き替えに若手有望選手を獲得する。換言すると、「現在(=即戦力のスター選手)」を「未来(=将来の有望株)」と交換することが、期限直前のトレードを成り立たせる原則である。また、スター選手を放出する側には「高年俸という経済的足枷から逃れたい」という、世知辛い動機も存在する。
今季はここまでトレード市場の動きは鈍かったが、7月8日、ブルージェイズのGM、J・P・リシャルディが、エース、ロイ・ハラデー(32歳)の放出を示唆した途端、動きが活発になった。
チームの「看板」をチームの「事情」で手放すこともある。
ハラデーは、今季ここまで10勝3敗・防御率2.85と、エースとして申し分のない活躍をしている(以下、数字は7月9日現在)。しかも、通算141勝69敗・オールスター選出6回・2003年サイヤング賞獲得という実績が示すように、チームの「看板」ともいうべき選手である。ブルージェイズはなぜハラデーの放出に踏み切らなければならなかったのか、その理由は以下の三つにまとめられよう。
【 1 】 プレーオフ出場を断念:もともとア・リーグ東地区はヤンキース・レッドソックス・レイズの「3強」を相手にしなければならず、勝ち抜くことはむずかしかった。開幕当初こそ3強との対戦が少なくダッシュに成功したが、最近は3強相手に負けが込み、プレーオフ出場は事実上不可能になってしまった。
【 2 】 苦しい財政事情:長期大型契約がことごとく失敗、チームの財政事情は芳しくない。以下、ブルージェイズを苦しめる「アホウドリ契約」を列挙する。
(参考コラム:マリナーズ解雇GMが集めた「アホウドリ」たち。)
◇バーノン・ウェルズ(30歳):2010-14年の契約残高は1億700万ドルと、著しく巨額であるにもかかわらず、今季OPS7割2分9厘と不振を極めている。
◇アレックス・リオス(28歳): 2010-14年の契約残高5970万ドルに対し、今季OPS7割3分2厘。
◇B・J・ライアン:今季防御率6.53と絶不調で7月9日解雇。来季終了までの年俸約1500万ドルを「空気に払う」結果となった。
【 3 】 ハラデーの売り時:ハラデーは来季終了後FA資格を取得することが決まっている。ただでさえ財力が乏しいのにアホウドリ契約に祟られているので、ブルージェイズが契約を更新する可能性は事実上ゼロである。ここまでの投資を有効に回収しようと思ったらトレードで若手有望選手と交換する以外に手段はない上、売り時は、トレード期限直前のいまか、今季終了後しかない。
ハラデー獲得には多大な見返りが必要だが……。
かくしてハラデー放出を決断したブルージェイズだが、看板選手放出に対するファンの反発も考慮しなければならないだけに、「高価」な見返りを要求すると予想されている。スポーツ・イラストレイテッド誌、ジョン・ヘイマン記者は「レギュラークラスの野手、来季にはメジャー昇格可能な有望投手、トップクラスの若手有望株(の少なくとも3人)」を差し出さなければならないと予想しているが、ハラデー級の選手を獲得しようと思ったら、獲りにかかる側も相当の出費を覚悟しなければならないのは言うまでもない。