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<ベルマーレの試練と再挑戦> “湘南の暴れん坊”が生きる道。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byToshiya Kondo
posted2011/03/02 06:01
フジタの撤退でかつてと練習場は変わったが、河川敷でのトレーニング風景は昔も今も同じ
「どのような結果になっても続けてもらいますよ」
最終節で残留を勝ち取ったヴィッセル神戸は、9月中旬に監督交代へ踏み切った。J2降格となったFC東京と京都サンガも、シーズン途中で監督を交代させている。
「オレだって何回も自問自答した」と、反町は吐露する。試合終了から記者会見までのわずかな時間に、「今日は辞めるって言うぞ」と大倉に詰め寄ったのは一度や二度でない。
大倉は違った。監督交代の四文字は、最後まで脳裏に浮かばなかった。「どのような結果になっても続けてもらいますよ」と、反町の言い分を退けていったのである。
シーズン中の大倉は、時間の許す限りグラウンドへ足を運ぶ。練習場にいる時間は、どのクラブの強化担当より長い。
四季を通じて強風の舞う相模川沿いのグラウンドには、ひたむきに練習に取り組む熱が絶えなかった。降格圏に沈むチームにありがちな停滞感や、誰かに責任を押しつけるような陰湿さも漂っていない。チーム全体の気持ちが、現状打破という一点に向かっていた。選手会長の田村が、選手の声をすくい上げる。
「ほとんどすべての試合で、練習で言われたな、これ確認したな、ということがおこる。反さんをはじめとするスタッフは、睡眠時間を削ってでも頑張ってくれている。結果が出ないのは僕ら選手の力が足りなかったからで、監督の責任じゃないんです。ここまでしてもらっているのに勝てない、という申し訳ない気持ちしかなかったですから」
「下手クソでも取りにいく」というクラブの理念を守るために。
両膝のケガが原因で、田村は2010年限りでスパイクを脱いだ。ホーム最終戦後に行なわれた引退セレモニーでは、涙ながらにスタッフの続投を訴えた。
「この2年で僕らは、天国と地獄を味わった。もう一度J1へ戻るためには、選手と一緒に苦しんできて、同じように『ちくしょう』って思ってくれる監督のほうが絶対にいい」
ゴール裏で声を張り上げてきたサポーターもまた、監督交代は望んでいなかった。ベルマーレ平塚と呼ばれていた当時から、ほとんどの試合を観戦している大久保祐三は言う。
「責任の取り方は色々あると思うんですが、もう一度J1に昇格して、J2へ落ちないチームを作ることで、眞壁社長や反町監督には責任を果たしてほしかった」
それでもなお、チームにメスを入れるべきなのか。監督交代のメリットをいくら探しても、大倉の考えは続投に行き着いた。
代表取締役社長の眞壁潔は、早くから続投要請の意思を隠さなかった。目先の浮揚効果を探るのではなく、クラブの理念を墨守することに中長期的な価値を見出していたのだ。
「つねにゴールを意識した、攻守の切り替えの早いアグレッシブなサッカーを目ざすのが我々の理念。それはJ1でも変わらない。0-1や1-2でリードされていて、それ以上失点しないためにボールを廻していたら、ウチのファンやサポーターは誰も納得しないと思う。下手クソでも取りにいく。その考え方はクラブの原点で、湘南の暴れん坊と呼ばれた姿を取り戻すために、OBでもある反町に来てもらったんですから」