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父親が心配「おい、早稲田の看板学部じゃないか。大丈夫か?」“私大最難関”早大政経学部で箱根駅伝を3回走ったランナー「“スポーツ推薦”ではない戦略」
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生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/04 11:06

2023年1月、伊福陽太(当時2年)は自身初の箱根駅伝を走る。早大政治経済学部の箱根ランナーは久しく出ていなかった
「この前も、町田で一緒に地中海料理食べてきました(笑)。僕らの学年はほとんどが京都出身で、ひとりだけ和歌山から若林が入学してきました。中学時代の持ちタイムも良かったので、いったいどんな奴が来るんだろう? と思っていたら、最初の練習で衝撃的だったのは、フツーの運動靴で登場したことです。え、なに? そんなので走ってるヤツ、見たことないよ、みたいな。それなのに速い(笑)。ランニングフォームも、今も昔も変わってないです」
レベルの高い環境で走った3年間、伊福君は一度もインターハイへとつながる京都府大会、そして地元で行われる全国高校駅伝で走ることはなかった。高校陸上では、一校から一種目にエントリーできるのは3人まで。1500m、3000m障害、5000mを合わせて、のべ9人。駅伝は7区間だから、より競争が激しくなる。
「高校時代の5000mの自己ベストは、14分34秒でした。30人ほどの部員のなかで、真ん中くらいだったので、メンバーに入るのは難しかったです。ただ、奥村(隆太郎)先生が、全員の面倒を見てくれたのがありがたかったですね。自分の力はしっかりと伸ばせたと思いますし、それが大学で競技を続けることにつながりました」
父親の心配「早稲田の看板学部じゃないか。大丈夫か?」
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一方で、伊福君は自分の高校生活においては勉強を重要な要素と捉えていた。
「将来のことを考えた時に、陸上の結果で進学は難しいと思っていたので、つぶしが利くように陸上と勉強、両方に力を入れないといけないと考えてました」
今年の春、洛南高校から京都大学への合格者は69人。大阪の北野高校についで全国で2番目の数字だ。
「洛南には、京大をはじめとした国公立を目指す『空』コースと、地方国立大を目指す『海』コースがあります。洛南は真言宗の学校で、開祖の空海上人の名前からコース名を取っています」
実は、伊福君の父君は京都大学大学院農学研究科の教授を務めている(京大ラグビー部の出身で、今はラグビー部長も務める)。
「父からは、進学先についてはなにも言われませんでしたけど、勉強はするようにとは言われました。たぶん、父は本当に頭がいいんですよ。自分が高校の数学の問題で唸っていると、パッと見てすぐに解答にたどり着きますから。今は専門が違うので、数学からはだいぶ遠ざかっているはずなのに、分かるんですよね」
様々な選択肢が考えられたが、先輩の諸冨が指定校推薦を利用して早稲田に進学するのが決まり、伊福君は「そういう道もあるのか」と進路希望を固めた。
「早稲田だったらスポーツ推薦組だけではなく、推薦組以外の“一般組”の選手も箱根駅伝を走っていたので、チャンスがあるかなと。高校の定期テストではしっかり点を取って、入試では志望動機、共通テストのスコアを提出して、オンラインでの面接がありました」
結果、めでたく早稲田大学政治経済学部政治学科に合格した。
「父からは、『おい、早稲田の看板学部じゃないか。大丈夫か?』と言われました(笑)」
