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「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》

posted2025/02/26 11:03

 
「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「よわいはつよいプロジェクト」の発起人:左から小塩靖崇(国立精神・神経医療センター研究員)、川村慎(ラグビー選手)、吉谷吾郎(クリエイティブディレクター)

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph by

Hideki Sugiyama

 強い体を持つアスリートは、メンタルも強いと思われがちだ。

 精神的な甘さが競技力の弱さにつながるとの考え方が映し出されたものだが、時代は変わりつつある。その分厚い壁を打ち砕くべく日本ラグビーフットボール選手会が体当たりしている。弱さの開示こそが強さにつながるとの思いを乗せて「よわいはつよいプロジェクト」(通称「よわつよ」)を発進させ、ラグビー選手の心に寄り添うことから始まった取り組みは今や他競技のアスリート、学校、企業へと広がりを見せている。

 プロジェクトの旗振り役となっているのが2022年まで選手会会長を務め、現在は一般社団法人「Japan PDP」の代表理事となった横浜キヤノンイーグルス、37歳のベテランフッカー(HO)川村慎である。

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 慶応高、慶応大ラグビー部出身の川村は大学卒業後に大手広告代理店に一度就職しながらも、退社してNECグリーンロケッツ東葛に加入するという異色の経歴を持つ。

 日本代表として活躍した畠山健介が選手会の2代目会長時代、海外と比べてメンタルフィットネスへのアプローチが少ないことへの課題感が共有されていた。当時副会長だった川村はこう語る。

「選手へのアンケート調査で、いろんな不安や悩みを抱えていることが分かって、肌感として持っていたものが顕在化した形になりました。選手をサポートするために選手会があるわけですから、ここはしっかりやっていかないといけないなというふうになりました」

アスリートのメンタルヘルスにおける問題点

 選手会は心の健康・メンタルヘルスを専門とする国立精神・神経医療研究センター研究員の小塩靖崇、早稲田大ラグビー部出身で選手会の業務も行なっていたクリエイティブディレクターの吉谷吾郎を引き込む。

「アスリートのメンタルヘルスにおける問題は当時、海外にはあっても日本ではほとんど知られていませんでした。そしてもう一つ、学校教育でのメンタルヘルスにおいては専門家よりもアスリートが伝えたほうが効果はあると感じました。この2点において自分も関わらせていただきたいと思いました」(小塩)

「慎さん、小塩さんの思いを、分かりやすく、伝わりやすく世に出すことが大切でした。社会的な運動にしていくためにも、何か言葉が必要でした。2人の話を聞きながら、ああ、こういうことだなって」(吉谷)

 吉谷によって「よわいはつよい」のネーミングが決まり、小塩によって専門的な知見を得られたことで川村が新会長に就任した2020年のタイミングでプロジェクトが立ち上がる。「選手が悩んでいる実態を世のなかに知ってもらいたい」という川村たちの思いがまず先にあった。

 活動は選手に対するアプローチから始まった。試合のメンバー選考、勝利へのプレッシャー、ケガとの戦い、将来に対する不安など、心に抱えるものは少なくない。

選手側の受け入れにくさ「別に病気じゃないから」

 ニュージーランド、オーストラリアではメンタルフィットネスのプログラムであるPDP(Player Development Program)が浸透しており、川村もその2カ国を訪れて実際に学んできた。テスト的に導入することを決めたが、ハードルもあった。その一つがPDPを実施するうえで選手の“伴走役”になるPDM(Player Development Manager)をどうするかであった。

【次ページ】 選手側の受け入れにくさ「別に病気じゃないから」

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