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「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byHideki Sugiyama

posted2025/02/26 11:03

「“ド正論ぶちかまし野郎”だった」ラガーマン川村慎(37歳)が「弱さが強さにつながることを実感した」ワケ《よわいはつよいプロジェクト全貌》<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「よわいはつよいプロジェクト」の発起人:左から小塩靖崇(国立精神・神経医療センター研究員)、川村慎(ラグビー選手)、吉谷吾郎(クリエイティブディレクター)

「よわつよ」には田村優、姫野和樹をはじめ現役ラガーマンも選手会の活動として積極的に参加するとともに、競技の枠を超えてアスリートが協力するなどその輪が大きくなっている。人々が「心も強い」と思っていたアスリートたちが自分の「弱さ」を語ることで、人々も共感、共鳴しやすい。昨年12月、社会の課題解決に取り組むアスリート、団体を表彰する「HEROs AWARD」を選手会が受賞したことで、今後はもっと注目を浴びていくに違いない。

「強いは強い」川村のターニングポイント

 そもそも川村自身がかつては「弱さ」を認めない「強いは強い」の人であった。慶応高時代はU―17日本代表候補に選出され、慶応大時代にも2年時に全国大学選手権準優勝を経験。大きな壁や悩みに直面したことはなかった。

「学生のころは特に“ド正論ぶちかまし野郎”で、ミスした選手に対して『どうしてやれないの?』とはっきり言っていました。自分はストイックにやってきて、それができるものだから、別に(思ったことを)隠さなかったんですね。社会人2、3年目まではそうだったかなと思います」

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 だが大手広告代理店を退社後はNECに社員選手として加入したものの、出場機会になかなか恵まれない。心の葛藤を押し殺して、強さに変換しようとしたがうまくいかなかったという。ここが川村のターニングポイントとなる。

「先輩をいつか超えてやる、ぶっつぶしてやるみたいなモチベーションでやり尽くしても結果は変わらなかった。頑張って壁を越える方法しか知らないし、持っている引き出しは全部開けてしまった。NECに入って5、6年になって、あるときチームメイトに『どうして自分はあの先輩に勝てないのか』と打ち明けるようにしてみたんです。そうすると、ああしてみたら、こうしてみたらってフィードバックをもらえて気持ちが楽になったし、頭のなかが整理されました。気持ちを共有することでプレーでも人とのコネクションが良くなって、結果チームのパフォーマンスが上がるということにも気づけて、弱さが強さにつながることを実感できたんです」

葛藤を楽しむという感覚

 川村は息の長いプレーヤーだ。プロ契約に切り替わった1年目を終えてチームから契約を更新しないことを通達されたものの、2022年に横浜キヤノンイーグルスに加入。翌年5月にリーグ戦通算100試合出場を達成している。

 ピッチ外の活動も多忙だが、かえって相乗効果でラグビーに対するモチベーションも上がっているという。

 川村は言う。

「ここまで長い間やれているのは、いろんな人の支え、環境、運の良さがあるとは思います。年齢に応じてどこに喜びを感じるかが変わっていくなかで、一緒にやっている仲間たち、後輩たちに素晴らしい環境を残したいという思いがあるから、むしろ長くプレーできているんじゃないか、と。イーグルスで同じポジションの選手にも(プレーヤーとして)持っているものは全部渡したいし、感じたことを伝えて共有したい。お互いに切磋琢磨してチームが勝てれば心の底からうれしい。ただそれと矛盾して、自分が試合に出たいとも思っています。そういう葛藤を抱えながらラグビーをやるのがメチャメチャ楽しい。こうやって楽しめているのも『よわつよ』で培った考え方、思いがあるからだと感じています」

 30代後半になって手に入れた葛藤を楽しむという感覚。「よわつよ」の先にあるものを、川村慎はこれからも先頭に立って追求していく。

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